最強の婚活 E

1. 初日:ハイレベル(と信じている)な視線

無人島のビーチに、場違いなサングラスをかけた男と、つばの広い女優帽を被った女がいた。

男の名は**「キング」こと金田(42歳)**。 自称・敏腕コンサルタント(実態は情報商材屋のアフィリエイター)。 「俺のフェロモンが強すぎて、一般女性は近寄れないんだよな」と本気で思っている。

女の名は**「マリア」こと真理子(39歳)**。 自称・インフルエンサー(フォロワー数は3桁、大半が業者)。 「私の美貌は罪。凡人には直視できない輝きがあるの」と信じている。

二人は、周囲の「普通の参加者」を完全に見下していた。 金田:(どいつもこいつも芋っぽいな。俺の隣を歩ける女がいない) 真理子:(貧相な男たち。私の靴を磨く資格すらないわ)

その時、二人の視線がぶつかった。 金田はニヤリと笑い、髪をかき上げた。 真理子はフンと鼻を鳴らし、足を組み直した。

金田:(……あの女、俺を見て震えたな? 俺のオーラに気圧されたか。可愛いもんだ) 真理子:(……あの男、私に見とれて動けないのね。まあ、他の有象無象よりはマシな顔つきだわ)

2. 3日目:マウント合戦の開幕

二人は吸い寄せられるように近づいた。 周囲が火起こしやテント設営に汗を流している中、二人は木陰で優雅に(喉はカラカラだが)対峙していた。

「やあ。君、浮いてるね」 金田が気取ったポーズで声をかけた。 「俺もさ。レベルの低い連中と混ざると、IQが下がる気がしてね」

真理子はサングラスを少しずらして彼を見た。 「あら、奇遇ね。私もよ。ここの空気、庶民の汗臭くて耐えられないの。……あなた、少しは話が通じそうね」

「フッ、わかるよ。俺たちは『選ばれる側』だからな。俺は年収とか言わない主義なんだ。数字で語るのは三流だからね(※年収200万)」 「素敵。私も男をお金で見ないわ。私の隣にふさわしい『格』があるかどうかよ(※借金あり)」

二人の会話は、側から見れば虚栄心の塊だったが、当人たちにとっては「高尚な魂の共鳴」だった。 お互いに嘘をついている自覚はない。彼らの脳内では、それが真実だからだ。

3. 10日目:働かないふたり

島での生活が厳しさを増しても、この「トップ・オブ・トップ(自称)」カップルは動かなかった。

「おい金田、少しは手伝えよ!」 班長役の男性が怒鳴ると、金田は哀れむような目で首を横に振った。 「リーダーシップ論で言えば、司令塔は動かないのが鉄則だ。俺は全体の戦略を練っている(寝ているだけ)」

一方、女性陣から「水汲み行ってよ!」と詰め寄られた真理子も、優雅に扇子を仰いだ。 「ごめんなさいね。私の肌は紫外線アレルギーなの。それに、私が動くと男性陣が色めき立って、作業効率が落ちるでしょ?」

当然、二人は集団から追放された。 食料の配給を断たれた二人は、離れた岩場で並んで座っていた。

「愚かな民だね。天才は常に迫害される」 金田が腹の虫を鳴らしながら言った。 「ええ、嫉妬って醜いわ。私たちが輝きすぎているから」 真理子も空腹で目が回りそうだったが、背筋だけは伸ばしていた。

ここで奇跡が起きた。 金田が、隠し持っていた「プロテインバー(賞味期限切れ)」を取り出したのだ。 「……君にやるよ。俺の筋肉は、空気中の窒素からもタンパク質を合成できるからな」

真理子はそれを受け取り、半分に割った。 「半分返すわ。私が一人で食べたら、あなたが私の優しさに惚れすぎて、心臓発作を起こすかもしれないもの」

二人は腐ったプロテインバーを齧りながら、確信した。 (こいつ……俺(私)にふさわしいレベルだ!)

4. 20日目:共依存のナルシズム

二人は「島の王と女王」という設定(妄想)で生活を始めた。 誰も相手にしていないのに、二人の世界では「周囲が我々を崇めている」ことになっていた。

「見ろよマリア、あそこの男たちがこっちを見てる」 「ええ、私の脚線美に釘付けね。困ったわ」 (実際は「あいつら、まだ生きてるのか?」と心配されているだけ)

「金田、あなたのその野生的なヒゲ、ワイルドで素敵よ」 「ああ。剃らない美学だ。君のそのボサボサの髪も、ライオンのようで高貴だ」 (実際は風呂に入っていないだけ)

彼らは、お互いの「設定」を肯定し合う唯一の存在だった。 普通の人が相手なら「鏡見ろよ」で終わる。 しかし、彼らは互いを「鏡」として、自分の虚像を映し出し、褒め称え合っていたのだ。 これはある意味、最強のパートナーシップだった。

5. 最終日:伝説のカップル誕生

運命の30日目。 やつれ果て、服はボロボロ、異臭を放つ二人が、しかしレッドカーペットを歩くような堂々たる足取りで現れた。

他の参加者たちは、すでにマッチングを済ませ、疲れ切っていた。 その静まり返った空気を、二人はまたしても都合よく解釈した。 「見ろ、俺たちの登場に圧倒されて言葉もないようだ」 「当然よ。主役は遅れて来るものだもの」

ドローンの前で、金田は真理子の肩を抱いた。 「AIに選ばせるまでもない。俺のDNAが、この世で最も優秀な器(うつわ)を求めている」 「フフ、光栄に思いなさい。この私が、あなたの遺伝子を残す事業に参加してあげるわ」

周囲の「うわぁ……」というドン引きの声援を、彼らは「拍手喝采」だと認識した。

金田:「結婚しても、ファン(※他の女性)への対応で忙しいが、嫉妬するなよ?」 真理子:「あなたこそ。私が世界中から求婚されても、いちいち泣かないでね?」

二人はガッチリと手を組んだ。 その手は、自分たちの妄想を守るために、死ぬまで離れることはないだろう。

エピローグ

ヘリコプターの中、二人は窓の外を見下ろして言った。 「狭い島だったな。俺の器には小さすぎた」 「そうね。日本という国さえ、私たちには窮屈かもしれないわ」

担当官は、書類に「成立:1組(要注意ペア)」と書き込みながら、深いため息をついた。 「……ある意味、割れ鍋に綴じ蓋。猛獣同士、檻の中で一生幸せに暮らしてくれ」

こうして、誰にも迷惑をかけず、二人だけの世界で互いを褒め称え合う、ある意味で「世界一幸せなバカップル」が爆誕した。 この国の少子化対策は、とんでもない怪物を世に放ってしまったのかもしれない。


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