最強の婚活 G

1. 初日:イージーモードの予感

「……これ、私が来てよかったんですか? なんか申し訳ないなぁ」

無人島の白い砂浜。**レミ(24歳)**は、口元を手で隠してクスクスと笑った。 彼女は、この島で唯一の20代だ。アパレル店員で、学生時代はサークルのマドンナ的存在。彼氏が途切れたことはない。 今回参加したのは、借金がある親に頼まれたからだが、彼女には余裕があった。

周囲を見渡す。 女性陣は30代後半から40代。「必死さ」が滲み出ているお姉様方ばかり。 男性陣は35歳から45歳。「モテないオーラ」を背負った、冴えないおじさんたち。

(楽勝じゃん。私が一番若いし、可愛いし。黙って座ってるだけで、男たちが争奪戦を始めるわ) レミは髪をかき上げ、持参した日焼け止めを優雅に塗り始めた。 「誰かー、喉乾いたからお水持ってきてくれませんかー?」 甘い声を出せば、すぐに誰かが飛んでくる。そう信じていた。

2. 7日目:違和感

しかし、1週間が過ぎても、誰もレミに群がらなかった。

「あれ……?」 男性陣は、必死に火を起こしたり、魚を釣ったりしている。 レミが「ねえ、お腹すいた」と声をかけても、 「あ、ごめん。今忙しいから」 と、そっけなく返されるだけだ。

一方で、信じられない光景を目にした。 地味で、もうすぐ40歳になる**和子(かずこ)**という女性の周りに、男性たちが集まっていたのだ。 和子は、釣った魚を手際よく捌き、怪我をした男性の傷を黙って手当てし、夜には焚き火を囲んでニコニコと男たちの愚痴を聞いていた。

「和子さん、これ食べる? 焼けたよ」 「ありがとう。佐藤さんこそ、頑張りすぎないでね」

(はあ? なんであんなオバサンが? 私の方が肌も綺麗だし、スタイルもいいのに!) レミは焦りを感じ始めた。 彼女は、若さを武器にしていたが、ここでは「若さ」は「役立たず」と同義だった。 料理はできない。掃除も嫌い。会話は「へー、すごーい」しか言わない。 サバイバル生活において、彼女はただの「お荷物」でしかなかったのだ。

3. 20日目:暴落する市場価値

レミはターゲットを絞ることにした。 一番年収が高そうな、**高橋(42歳・メーカー管理職)**だ。彼は真面目で優しそうだ。

「ねえ、高橋さん。私、ここ出たら高橋さんのために美味しいご飯作ってあげる。だからペアになろう?」 レミは上目遣いで迫った。合コンならこれでイチコロだったはずだ。

しかし、高橋は困った顔で首を横に振った。 「レミちゃん、君は若いし可愛いよ。でも……」 「でも?」 「僕たちは、ここで死ぬまで離婚できないんだ。これからの50年を考えた時、僕は『一緒にいて安心できる人』がいいんだよ」

高橋の視線の先には、またしても和子がいた。 「若さはいつか失くなるけど、思いやりや生活力はずっと続くからね」

レミは絶句した。 (嘘でしょ……。私が負けるの? 24歳だよ? プレミアチケットだよ!?)

男たちは馬鹿ではない。 「若い奥さん」は魅力的だが、一生離婚不可という鎖で繋がれるなら、「話が通じて、支え合えるパートナー」を選ぶ。 レミの今までチヤホヤされてきた経験は、「遊び相手」としての需要だったのだ。「終身刑の相棒」としては、彼女の価値はゼロに等しかった。

4. 29日目:プライドの崩壊

期限前日。 ほとんどの男女がカップル(または協定)を成立させていた。 残っているのは、レミと、コミュニケーションに難がある数名の男性だけ。

レミは半狂乱になった。 「誰でもいい! ねぇ、私を選んでよ! 若いよ! 子供も産めるよ!」 彼女はなりふり構わず叫んだ。 しかし、残った男性たちでさえ、彼女を避けた。

「君、ずっと文句言ってたじゃん」 「水汲みも一回もしなかったよね」 「俺たちみたいなオッサンを馬鹿にしてた目、忘れないよ」

ブーメランが突き刺さる。 彼女が見下していた「非モテ男」たちにも、プライドと観察眼はあったのだ。 中身のない人間に、人生を預けるバカはいなかった。

5. 最終日:AIの審判

30日目の正午。 無機質なアナウンスが響き渡った。

『マッチングタイム終了。これより、未成立者に対する強制マッチングを執行します』

レミは砂浜にへたり込んだ。 「嫌だ……嫌だ……誰か……」

ドローンが、レミの前に降り立った。 『対象者:レミ。あなたのパートナーを選出しました』

モニターに表示されたのは、**権田(ごんだ・45歳)**という男だった。 無口で、不潔で、この30日間一度も誰とも話さず、ただ黙々と虫を捕まえて食べていた、一番「生理的に無理」な男だ。

「嘘……嘘でしょ!?」 レミが叫ぶと、権田がのっそりと近づいてきた。 「……よろしく。俺は女に興味はないが、国が決めたなら従う。俺の虫コレクションの管理を手伝え」

『異議申し立ては認められません。婚姻届への署名を強制執行します』

レミは泣き叫びながら、権田の手を握らされた。 その手はゴツゴツして、泥だらけだった。

彼女を見送る高橋と和子のカップルが、気の毒そうに見ていた。 「若いうちに苦労を知るのも、勉強かもしれないな」

ヘリコプターの中で、レミは窓の外を見た。 自分をチヤホヤしてくれた合コンの会場も、キラキラした街も、もう戻らない。 隣には、虫かごを抱えた新しい夫がいる。

「若さ」という魔法が解けた世界で、彼女は初めて、自分自身の実力で生きていかなければならない。 その代償は、あまりにも大きかった。


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