1. 初日:勝者のメンタリティ
無人島のビーチに降り立った**恭介(きょうすけ・32歳)**は、周囲の男性陣を見回して、思わず吹き出しそうになった。
(おいおい、マジかよ。国も残酷なことをするな)
集められた男たちは、見るからに「女性慣れ」していない。 挙動不審なオタク、目も合わせられない内気な男、汗だくで震えている小太りな男……。いわゆる「童貞軍団」だ。 対して恭介は、中堅広告代理店勤務。派手ではないが、人並みに恋愛もし、何人かの女性と付き合い、別れてきた経験がある。
(ここはサバイバル婚活だ。女性だって馬鹿じゃない。会話もできない童貞より、エスコートのできる俺を選ぶに決まってる)
恭介は「ガツガツするのはスマートじゃない」と決め込み、腕を組んで余裕の笑みを浮かべていた。 「ま、焦らなくても向こうから来るでしょ」 彼は、持参したアウトドアチェア(有名ブランド)を広げ、優雅に座った。
2. 10日目:必死さという武器
しかし、恭介の計算は少しずつ狂い始めた。
女性陣は、サバイバル生活の過酷さに悲鳴を上げていた。 トイレがない、虫が出る、お風呂に入れない。 そんな彼女たちの前に現れたのは、恭介が「負け犬」と見下していた童貞たちだった。
「あ、あの! 僕、簡易トイレ作りました! 囲いもあるんで、見えません!」 工学部出身のメガネ男が、竹と葉っぱで立派なトイレを作り上げた。女性たちが「神!」「すごい!」と歓声を上げる。
「虫、追い払います! ずっと起きて番をしますから!」 気弱そうな男が、夜通し棒を持ってテントの周りを歩き回った。翌朝、女性たちは「安心して眠れた」と涙ぐんで感謝した。
彼らは「モテたい」という下心以上に、「女性と接するチャンスなど一生ないかもしれない」という異常なまでの献身を見せていた。 プライドをかなぐり捨て、泥だらけになり、下僕のように働く彼らの姿は、次第に女性たちの心を動かし始めていた。
一方、恭介はというと。 「大丈夫? 君の瞳、疲れてるよ」 「星が綺麗だね。まるで君みたいだ」 彼は「過去にウケた口説き文句」を使っていたが、反応は冷ややかだった。
「……で、水は?」 女性の一人が冷たく言った。 「えっ、あ、いや、水汲みは彼らがやってるから……」 「口だけなのね。あの子たち見てよ。手から血が出るまで薪拾いしてるのよ」
恭介はハッとした。 (いやいや、あんな必死なのは引くだろ? 女性はもっと余裕のある男が好きなはずだ) 彼はまだ、自分の「過去の成功体験」にしがみついていた。
3. 20日目:逆転するカースト
島内の序列は完全に逆転していた。
「健太くん、こっち座りなよ。魚焼けたよ」 「サトシさん、肩もんであげる。重い荷物持ってくれたもんね」
かつて「キモい」と言われていた男たちが、今やヒーロー扱いされている。 彼らは「女性経験がない」からこそ、女性を神聖視し、絶対に裏切らず、尽くし抜く。 「離婚できない法律」において、この**「絶対的な忠誠心」**ほど安心できる材料はなかったのだ。
恭介は焦り始めた。 (嘘だろ? あのオタクだぞ? なんで俺が余ってるんだ?)
彼はターゲットを、一番地味な**ミホ(30歳)**に変えた。彼女なら、俺の価値がわかるはずだ。 「ねえミホちゃん。俺と組まない? 俺、美味しいイタリアン知ってるし、エスコートも……」
ミホは焚き火の番をしながら、静かに言った。 「恭介さん。イタリアンなんて、ここにはないんです」 「えっ」 「私たちが欲しいのは、雨漏りを直してくれる手と、一晩中火を絶やさない根性です。……『経験』があるからって、ふんぞり返ってる人は要りません」
グサリと刺さった。 恭介の「経験」は、平和な文明社会でのみ通用する通貨だった。 ここでは、泥臭い「生存能力」と「献身」こそが正義。 スマートに振る舞おうとした恭介は、ただの「働かない気取った男」でしかなかった。
4. 29日目:プライドの残骸
最終日前日。 童貞軍団は全員、パートナーを見つけていた。 「俺なんかでいいの?」「貴方がいいのよ」という、涙ながらの誓いがあちこちで交わされている。
残ったのは、恭介ひとり。 そして女性陣の中で余ったのは、**エリザベス(自称・40歳)**という、島一番の毒舌家で、誰もが恐れるボス的な女性だけだった。 彼女もまた、「年収2000万以下はゴミ」と公言し、誰ともマッチングしなかった強者だ。
恭介は震えた。 (い、嫌だ……あんな怖い人と……AI、頼む! もっとマシな相手を!) 彼は最後まで「自分から頭を下げる」ことを拒否した。 AIなら、俺のスペック(年齢・経歴・容姿)を評価して、どこかの隠し玉とマッチングさせてくれるはずだ。
5. 最終日:AIの審判
30日目の正午。 無慈悲なアナウンスが響く。
『マッチングタイム終了。未成立者による強制マッチングを行います』
ドローンが恭介の前に降り立つ。 恭介は祈った。頼む、奇跡よ起きろ。
『対象者:恭介。分析結果を発表します』 『あなたは過去の恋愛経験に固執し、現状の課題解決を放棄しました。プライドが高く、実用性が低いと判断されました』
そして、AIは無情な宣告を下した。
『最適なパートナーは、同様に理想が高く、現実を見ようとしなかった……エリザベス氏です』
「ぎゃああああああ!」 恭介の悲鳴と同時に、エリザベスが仁王立ちで現れた。 「フン。売れ残りのシティーボーイか。ま、アタシの荷物持ちくらいにはなるでしょ」
『相性判定:最悪ですが、矯正が必要な二人です。婚姻届への署名を執行します』
恭介は泣きながらペンを握らされた。 横を見ると、かつて見下していた童貞たちが、パートナーの手を握り、幸せそうにヘリへ乗り込んでいく。 「やったな、俺たち!」「ああ、幸せになろうな!」
彼らは「経験」がないからこそ、一から二人で作り上げる喜びを知っていた。 恭介は「経験」があったからこそ、それを過信し、何も得られなかった。
「さあ行くわよ、愚図!」 エリザベスに首根っこを掴まれ、恭介は引きずられていった。 彼の「余裕」は消え失せ、これから始まる地獄のような結婚生活(矯正プログラム)が待っていた。
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