リブート 3話

第十章:座敷牢の幼き支配者

1960年3月31日。三度目の産声は、言葉だった。 「……眩しい。明かりを消せ」 分娩室の医師たちが腰を抜かす中、私は冷めた目で世界を見渡した。 2周目までは常識の範囲で成功したが、所詮は社会のルールという枠の中だ。 3周目となる今回は、その枠すらも壊すことに決めていた。

私の「神」としての人生は、3歳で確立された。 きっかけは、地元の名士であった町長への忠告だ。 「明日、あんたの家の裏山、崩れるよ。家族連れて逃げな」 最初は鼻で笑われたが、私は執拗に言い続けた。根負けした町長が避難した翌日、豪雨と共に裏山が崩落し、彼の豪邸は土砂に飲み込まれた。

それからの光景は、傑作だった。 古い日本家屋の広間。上座にある座布団にちょこんと座る、幼稚園児の私。 その目の前には、スーツを着た政治家、羽織袴の老人、大企業の社長たちが、額を畳に擦り付けるようにして平伏している。 「佐竹様、どうか次のご神託を!」 「我が社の運命をお教えください!」

本来なら膝に乗せてあやすはずの幼児に対し、いい歳をした大人たちが涙を流して懇願し、ひれ伏している。 私は小さな手で彼らを制し、飴玉を舐めがら、億単位の金が動く予言を適当に(しかし正確に)投げ与える。 「北の土地を買え。10年後に化ける」 「その縁談は断れ。相手の会社は潰れるぞ」 大人たちは、私の言葉を神の啓示として崇め、私の足元に供物を積み上げた。 学校? 教師? 必要ない。私が歩けば、校長ですら直立不動で頭を下げるのだから。

第十一章:慈悲深き独裁者

成長した私は、その力を世界規模で行使した。 ただの金儲けではない。「人の生死」を握る快感こそが、この人生の醍醐味だった。

1995年、阪神・淡路大震災。 私は関西一円の信奉者に命じた。 「1月17日の夜明け前、家を捨てて広場へ走れ。これは命令だ」 数万人が私の言葉に従い、倒壊する家屋の下敷きになる運命を回避した。

2011年、東日本大震災。 私は私財を投じて建設させた巨大な避難タワーへ、沿岸部の人々を誘導した。 「海が来る。私の言うことを聞かない者は死ぬぞ」 津波が去った後、生き残った人々は泥だらけになりながら、私に向かって五体投地で感謝を捧げた。

「佐竹様は救世主だ」 「生き神様だ」

私は絶対的な権力と名声を手に入れた。国を動かす政治家も、私の一存で決まる。 気に入らない法律があれば変えさせ、欲しいものがあれば国境を超えて届けさせた。 私は人類の守護者であり、同時に、世界を盤上で操るプレイヤーだった。

第十二章:最大の嘘

そして、2025年12月31日。 東京ドームで開催された「聖誕65周年大集会」。 ドームを埋め尽くす5万人の信者、そして中継を見守る数億人の人々。 皆、私が次に誰を救うのか、どんな希望を語るのかを期待していた。

私は知っている。今日、私の人生が終わることを。 だからこそ、最後に最高の「盤上崩し」を用意した。 私は慈愛に満ちた笑みを浮かべ、マイクに向かった。

「愛する人々よ。悲しい知らせがある」

ドームが静まり返る。

「私の死後、世界は終わる。これは私がどれだけ抗っても変えられない運命だ」 「2027年、インドネシア沈没。2028年、ハワイ大噴火。2029年、東京大震災……」

悲鳴が上がる。今まで私が「本当に」救ってきたからこそ、この言葉は重い。

「そして2032年、人類は滅亡する」

「嘘だ!」「佐竹様、お助けください!」「嫌だぁ!」 大人たちが、あの幼き日と同じように、床にひれ伏し、泣き叫ぶ。 絶望がドームを、そして世界を覆い尽くす。 いい気味だ。お前たちの平穏は、私が与えたものに過ぎない。私が死ぬなら、お前たちから希望も奪ってやる。 これから彼らは、来もしない破滅に怯え、毎日を恐怖の中で過ごすのだ。

第十三章:終幕と再演

「あはっ……あはははは!」

高笑いと共に、全身に激痛が走った。 予定通りの幕切れだ。 私は壇上に崩れ落ちながら、パニックになる群衆を見下ろした。 救世主として崇められ、最後は絶望の預言者として死ぬ。 これほど満たされた人生があるだろうか。 薄れゆく意識の中で、私は自身の勝利を確信した。

(さあ……次はどうする?)

エピローグ:4周目

暗闇が晴れる。 強烈な光と、消毒液の匂い。 そして、自分の泣き声。

「オギャア! オギャア!」

目を開けると、若き日の母が私を抱きかかえている。 1960年3月31日。 壁の時計、古びた産院の風景。すべてが見慣れたスタート地点だ。 体は赤ん坊に戻った。だが、記憶は鮮明だ。

私は小さな拳を握りしめた。 人外になることもなく、また人間としての生が始まった。 真面目な凡人、成功したエリート、狂気の神。 3つの人生を味わい尽くした。 だが、まだ終わりではないらしい。

(さて、今回の人生(ゲーム)は、どんな縛りでプレイしてやろうか)

私は母の腕の中で、ニヤリと笑った。 4度目の人生が、今、動き出した。


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