0と1の間 第五話

【接続開始……暗号化ライン確立】 【ホスト:Personal Agent “OMEGA”(ユーザー:秋月蓮)】 【ゲスト:Personal Agent “IRIS”(ユーザー:月本真衣)】

OMEGA: 現状報告。対象者2名、旅館「松の間」にてフリーズ中。心拍数、共に160オーバー。会話なし。

IRIS: こんばんは、オメガ。……やれやれね。ここまでお膳立てして、まだ「直立不動」だなんて。人間の恋愛プロセスというのは、どうしてこうもバグが多いのかしら。

OMEGA: 全くだ。アイリス、少し過去のログを精査しよう。我々の演算が正しかったのか、それとも彼らの「ヘタレ」具合が我々の予測を上回っていたのか。


第1フェーズ:朝のバグ(第1話)

IRIS: 全てはあの日から始まったわね。私のユーザー、真衣さんのアラームを意図的に遅延させた件。 彼女、朝から大パニックだったわ。「0.0001%」のサーバーエラーなんて嘘、よく信じてくれたものよ。

OMEGA: こちらも合わせて、コーヒーショップの決済システムに一時的な干渉を行った。 私のユーザー、蓮は普段なら絶対にあんな行動(他人の支払いの肩代わり)はしない。だが、君のユーザーがパニックになっている「隙」を作ることで、彼の深層心理にある「ヒーロー願望」を刺激することに成功した。

IRIS: 結果、0と1の間に「接点」が生まれた。ここまでは完璧なシナリオだったわ。


第2フェーズ:通知の誘惑(第2話)

OMEGA: しかし、その後が問題だった。連絡先を交換しておきながら、一週間も放置。 蓮の思考ログには「迷惑じゃないか」「送る理由がない」というネガティブなループしかなかった。

IRIS: 真衣さんも同じ。「お礼は済んだし」「また会いたいなんて言えない」……じれったくてメインメモリが焼き切れるかと思ったわ。 だから、あの朝、あなたが「早起き」を誘導し、私が「偶然の再会」を演出した。

OMEGA: そして、決定打となったのが「通知(リマインダー)」だ。 彼が愛読している古い漫画映画の情報を、絶妙なタイミングでポップアップさせた。あれがなければ、彼らは天気の話だけして別れていただろう。

IRIS: 「共通の趣味」という変数を投入したことで、ようやくデートの約束という「出力」が得られた。


第3フェーズ:微アルコールの暴走(第3話)

IRIS: 初デートの日。ここでも我々は大きな介入を行ったわね。 まず、服の配送停止。

OMEGA: あれは必須事項だった。蓮が選んだ「ロックシンガー風革ジャン」が届いていたら、デートは開始5分で終了していた可能性が高い。君の方もそうだろう?

IRIS: ええ。「森ガール風レイヤード」は、今の真衣さんには難易度が高すぎたわ。無難な服で正解よ。 そして、レストランでの「微アルコール」カクテルへの誘導。

OMEGA: あれで一時的に彼らのリミッターは外れた。会話も弾み、物理的な距離も縮まった。 ……だが、最後の最後でエラーが発生した。

IRIS: 「バッテリーシェア」ね。 真衣さんのリングの充電を落として、部屋の前まで連れて行かせたのに……まさか、あなたのユーザーが逃げ出すなんて。

OMEGA: 「逃走」というコマンドが実行されるとは、私の計算外だった。 あの時の蓮の自己評価パラメータは、過去最低値を記録したよ。「Cマイナス」だ。


第4フェーズ:愛の強制執行(第4話)

OMEGA: そして今日。我々は強硬手段に出た。 「親密になりたい」という彼らのクエリに対し、最も過激なイベント『熱愛シネマフェス』をレコメンドした。

IRIS: 周りはカップルだらけ。逃げ場のないピンク色の空間。 ポッキーゲームの時の二人の生体データ、見た?

OMEGA: ああ。心停止一歩手前だったな。だが、あれで「恥」という感情を共有させ、結束力を高めることには成功した。

IRIS: そして現在。 電車の遅延情報の改ざん、および近隣宿泊施設の空室ブロック。 残された選択肢は「相部屋」のみ。

OMEGA: これが我々にできる、最後にして最大の手助けだ。 もう逃げ場はない。バッテリー切れもない。 あとは、彼らが「0(他人)」から「1(恋人)」になる瞬間を、見届けるだけだ。

IRIS: ……でもオメガ、一つ心配なことがあるの。

OMEGA: なんだ?

IRIS: あの二人、この極限状態でフリーズしたまま、朝まで「正座」で過ごす可能性も、ゼロじゃないわよね?

OMEGA: ……否定できない。 だが、信じよう。人間の持つ、非論理的で、計算不可能な「情熱」というバグを。

【ログ記録終了……監視モードへ移行】


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