あの、白一面の空間での「世界の終わり」から、3年の月日が流れた。 俺、神鳴(かみなり) 響(ひびき)は、この春、高校二年生になった。
3年前の夏。俺は世界の頂点に立ち、たった一つの「願い」を叶える権利を得た。 その権利を、俺は迷うことなく、死の淵にいた幼馴染、星宮(ほしみや) 葵(あおい)の病気を治すために使った。
…はずだった。
「おっはよー! 響、今日も元気?」
朝の通学路。隣に住む同い年の女の子、星宮 葵が、太陽のような笑顔で声をかけてくる。健康そのもの。元気いっぱいだ。3年前、彼女が不治の病で倒れていたことなど、誰も信じないだろう。
「…うるせぇ。元気すぎるだろ、お前は」
俺はいつものように、つっけんどんに返す。これが3年前から続く、俺の「クールな装い」だ。 振られた相手に、未練がましい顔なんて見せられるか。そう、3年前、彼女の病気を治して元の世界に戻った直後、俺は勢いで告白し、無残にも「陰キャはキモい」と振られたのだ。
何の因果か、俺たちは同じ高校に進学し、クラスは違えど毎朝顔を合わせる。 高校生になっても、俺の「陰キャ」属性は変わらなかった。特別な友人もできず、ただ無為に時間が過ぎていく、無味無臭な日々。
俺は、毎日のように後悔している。 あの時、もし別の願いを使っていたら。 葵の病気なんて放っておいて、大金を望んでいたら。俺を振った葵を見返せるほどの、特殊な才能を望んでいたら。…あるいは、俺を絶対的に愛してくれるメイド型ロボットを望んでいたら。
少しでも暇になると、もしもの未来(IF)を妄想してしまう。 あの時の選択肢さえ、間違えなければ。俺の人生は、もっと違う、もっと煌びやかなものになっていたはずなのに。
そんな後悔と妄想を抱えたまま帰宅し、自分の部屋のベッドに腰を下ろした、その時だった。
「久しぶりピカ、響ー!」
聞き覚えのある、あの甲高い声。 声の方へ目を向けると、俺の机の上に、見慣れた姿が座っていた。
「…ピカリス?」
3年前、俺を地獄のような殺し合いに引き込み、最後には世界の女王の忠実な僕(しもべ)として去っていった、紫色の妖精。 驚く俺の反応を待たずに、ピカリスは言葉を続けた。
「また、新しい妖精王を決める大会が始まったピカ! だから、また僕を助けてほしいピカ!」
(…3年前に、こんな語尾ははずじゃなかった気がするが)
語尾の「~ピカ」に突っ込みを入れたい衝動を必死に抑え、俺は冷めた目でピカリスを見た。
「…面倒だ。俺はもう、その手の話には関わらないと決めている」
「そう言うと思ったピカ! でもね、今回は特別ルールピカ。今回の戦いはタッグマッチピカ!」
ピカリスは机の上で飛び跳ねた。
「そして、前回のシード権を持つ響には、特別な権利が与えられているピカ! それは、好きな能力と、好きなペアを自分で選べる権利ピカ!」
「好きな…ペア?」
その言葉に、俺の脳内は瞬時に活性化した。様々な妄想が、高速で駆け巡る。
新しい能力で、今度こそ無双する俺の姿。 願いを、今度こそ自分のために使う未来。 そして――タッグマッチで、葵と、華麗な連携を決める姿。
あるいは、以前にタッグを組んでいた、あの俺を愛してくれた**赤羽(あかばね) 茜(あかね)**と再会し、今度こそ添い遂げるエンディング…。
(…チャンスだ。これは、俺の人生を書き換える、二度目の、そして本当のチャンスかもしれない!)
俺の内心の動揺を見透かしたように、ピカリスが真顔(のような表情)になって呟いた。
「…今回も、僕を優勝させてくれよ」
ピカリスの言葉が、3年前の敗北(告白の失敗)を思い出させた。
「…ふん。やれやれ、面倒な話だぜ」
俺は心の中で「こんどこそ」と誓いながら、精一杯クールに、冷静な声で返した。 俺の、二度目の「クールな装い」が、ここから始まる。
それから、数日の月日が流れた。
俺は、ピカリスから与えられた「特権」を行使すべく、葵か茜に声をかけようと、日々策を練っていた。
(葵に…? でも、あいつに振られた俺が、今さら『一緒に戦ってくれ』なんて、どうやって言えばいい? 病気を治した恩着せがましい奴と思われるだけだ)
(茜は…? あいつ、前回の記憶、ないんだよな。俺のことを『どちら様ですか?』と言った、あの他人行儀な顔…。あんな顔、もう見たくねぇ)
妄想の中では英雄になれるのに、現実は残酷だ。俺には、どちらに声をかける勇気も、全く湧いてこなかった。 毎日のように、学校へ行く俺のリュックの中で、あるいは部屋で、ピカリスが催促する。
「どうするピカー? そろそろタイムリミットピカよ? 誰をペアにするピカー?」
そのたびに、俺は虚勢を張る。
「…ふん。慌てるな。俺の計画は完璧だ。全ては俺の想定内にある。お前は黙って見ていればいい」
実際には何の計画もないまま、ただ日延べをしているだけ。俺の「クールな装い」は、いまや中身の伴わない、ただの虚勢になり下がっていた。
そして、ついにタイムリミットの時が、来てしまった。
ある日の学校の帰り道。
人通りの少ない住宅街の曲がり角で、俺の目の前に、二人の男が立っていた。 二人は、まったく同じ顔をしていた。
(…双子? まさか…あの『ラーの目』?)
3年前、俺と茜を追い詰めた、光を操る双子の能力者。彼らも、またエントリーしているのか? 俺が動揺を隠そうと身構えた瞬間、双子は同時に、懐かしい、そして忌まわしい言葉を口にした。
「…レッツダンス ダブル」
その言葉に、俺の体は、脳が考えるよりも早く反応した。3年間の平穏な日々で、忘れていたはずの、あの感覚。 条件反射で、俺は拳を突き出してしまう。
パシッ!
俺の拳が、双子の片方の掌と合わさる。 周囲の騒音が消え、景色が一瞬でバトルフィールドへと転送される。
戦いが始まっちまった。
「久しぶりだな、ライトニングボルケーノ。お前の『雷』の対策は、この3年間で完璧に仕上げてきたぜ」
双子は勝利を確信したように、ニヤリといやらしく笑う。 かつて俺を苦しめた光のコンビネーション。普通なら絶望する場面だろう。
しかし、俺の内心はとてつもなく楽観的だった。いや、思わず吹き出しそうになるほどの余裕すらあった。
ピカリスが与えてくれた『好きな能力を選べる権利』。 葵にも茜にも声をかけられず、部屋でウジウジと妄想ばかりしていた数日間。俺がただ無為にタイムリミットを待っていたとでも思うのか? いや、違う。俺はすでに、一つの『選択』を終えていたのだ。
「雷の対策、ねぇ……。やれやれ、滑稽すぎて涙が出るぜ」
俺は、3年前よりもさらに深く、傲慢なほどクールな笑みを浮かべた。 双子が訝しげに眉をひそめる中、俺はかつての『魔雷光』とはまったく違う、未知の構えをとる。
「誰が『また雷を使う』なんて言った? 見せてやるよ。俺の人生を書き換えるための……まったく新しい『力』をな」
俺の周囲の空気が歪み、かつての紫色の電撃とは似ても似つかない、異質のエネルギーが具現化し始める。 双子の顔から、一瞬にして余裕が消え去った。
神鳴響の、二度目の戦いが幕を開ける。

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