神鳴くんは「こんどこそ」クールを装う 第二話

「……何を強がりを」

双子が声を揃えて嗤った、まさにその直後だった。 ドンッ!!

重い鈍器で殴られたような衝撃音と共に、双子の一人が吹き飛び、錆びた観覧車の鉄柱に激突して崩れ落ちた。

「な……なにが……!?」

残されたもう一人の双子が、目を見開き、顔面を蒼白にさせて後ずさる。何が起きたのか、まったく理解できていない様子だ。

俺は、自分の拳の埃を払う仕草をしながら、余裕たっぷりの冷酷な笑みを浮かべた。

「やれやれ。お前らごときは、やろうと思えば『一瞬』でやれるんだよ」

俺は、一歩だけ相手に近づき、底冷えのする声で言い放つ。

「お前らみたいにすぐ負けた奴は知らないだろうがな……世界を巻き込んだ後半の戦いは、次元が違ったんだ。わざわざ技名を叫んだり、エネルギーを放ったりしなくても……俺からすれば、お前らなんて一瞬で終わる」

残された双子の一人は、恐怖でガタガタと震え出した。未知の力、そして一瞬で相方を沈められたという圧倒的な実力差。

「お、俺たちは二人で一人だ……! 一人がやられた時点で、もうコンビネーションは組めねぇ……勝ち目はない、降参だ!」

双子が悲鳴のように叫ぶと、バトルフィールドが解け、俺たちは夕暮れの住宅街へと帰還した。 双子は気絶した相方を抱え、逃げるように去っていく。

俺は、余裕の表情のまま、ゆっくりと踵を返し、家への帰路についた。

――そして、自室のドアを閉め、鍵をかけた瞬間。

「はぁぁぁぁっ……!! 死ぬかと思った……!!」

俺はベッドに倒れ込み、滝のような冷や汗を流した。

「本当に死ぬかと思ったピカ! 今日はハッタリで帰ってくれたからよかったものの、最初の一撃で二人とも倒せなかったら、もう勝ち目はなかったんだよ! 何考えてるの響!」

ピカリスが俺の顔の周りを飛び回りながら、キャンキャンと騒ぎ立てる。 言われるまでもない。今日の戦いが、俺の限界ギリギリの綱渡りであったことは、俺自身がいやというほど分かっていた。

俺が、ピカリスの特権で選んだ「好きな能力」。 それは、3年前の最後の戦い(バトルロワイヤル)で、他国の男が使った……「時」を操る能力であった。

時を止める。 これほど恐ろしく、絶対的な能力は他にあるまい。個人戦であれば、間違いなく最強だ。バトルが始まった瞬間に時を止め、相手の懐に潜り込んで全力で殴り飛ばす。相手からすれば、何も見えず、何もできずに吹き飛ぶことになる。

さっきの双子戦でも、俺は「レッツダンス」の合図と同時に時を止め、片方を思いっきり殴り飛ばし、元の位置に戻って時を動かした。傍から見れば、不可視の力で一瞬にして吹き飛ばしたように見える。そのハッタリで、残り一人をギブアップさせたのだ。

しかし、この最強の能力には、致命的な弱点があった。

「今回の大会はタッグマッチなんだよ! 二人同時に倒さないといけないのに、時を止める能力は、一回使った後のタイムラグ(クールダウン)が長すぎるピカ! 一歩間違えれば、動けない間にボコボコにされて終わりピカよ!」

ピカリスの言う通りだ。時を止めていられる時間はごく僅か。そして一度使えば、次に発動できるまでに隙ができる。今日のようにハッタリが通じなければ、俺はただの「喧嘩が少しできる高校生」になり下がる。

この弱点を補う解決策は、たった一つ。有能なパートナーを見つけることだ。

前回参加していなかった人間をパートナーにすれば、俺と同じように「好きな能力」を与えることができる。俺の「時」と相性のいい、防御や広範囲制圧の能力を与えれば、最強のタッグが完成する。

そして、そのパートナーの最有力候補は……星宮 葵だ。

しかし、高校生になり、完全に「陰キャ」として定着してしまった俺にとって、それはエベレストに登るよりもハードルが高かった。

(……もし、俺が葵を誘って、『は? 能力バトルとか、子供みたい。陰キャってやっぱりキモいね』って、あの時のように冷たい顔で笑われたら……)

3年前のトラウマが蘇る。あの侮蔑の視線を再び浴びるくらいなら、一人で戦って負けた方がマシだ。 そうやってウジウジと悩み続け、俺は数日経っても、結局結論を出せずにいた。

そして、結論が出ないまま、2回目のバトルは突然やってきた。

休日の駅前。買い物の帰りに、前方を塞ぐように立つ人影があった。 筋骨隆々の大男……3年前に戦った、岩を操る『ロックマン』だ。そして彼の隣には、見知らぬ髪の長い女性が立っている。

「見つけたぜ、ライトニングボルケーノ! 3年前の雪辱、今日こそ晴らさせてもらうぞ!」

「チッ……!」

油断していた俺は、相手の「レッツダンス」を回避できず、再びバトルフィールドへと引きずり込まれた。場所は、巨大な地下駐車場のような空間。

(ロックマンか……! あいつなら、開幕で時を止めて一発入れれば終わる!)

俺は早々にロックマンを倒そうと考え、思考を加速させた。 しかし、ロックマンは3年前の馬鹿ではなかった。

「3年前、お前の雷と、あの時の砂煙の結界……嫌というほど思い知らされたからな! 俺の新しい戦法を見せてやる!」

バトル開始と同時、ロックマンは自らの周囲に、岩と砂を高速で回転させる強固な結界を展開したのだ。

「しまった……!」

俺は勢い余って、すでに「時を止める」能力を発動してしまっていた。 静止した世界。しかし、ロックマンの周囲には、完全に静止した石礫と砂煙のドームが形成されている。時を止めても、この物理的な障害物を通り抜けて本体を殴ることはできない。

無駄に時間を消費し、俺は結界の外で「時」を動かした。

……タイムラグ発生!

最悪の事態だ。次の「時」を止められるようになるまで、数分の隙ができる。

「なんだ? 始まりと同時に消えるかと思ったら、何もしてこねぇのか?」

ロックマンが、砂の結界の中から嘲笑う。

「雷の能力を失っちまったのか? それともビビってんのか! だったら、俺から行ってやるぜ!」

ロックマンの結界の一部が開き、そこから弾丸のような勢いで岩の塊が飛んできた。 向こうからすればただの牽制かもしれないが、今の俺には「時を止める」以外の能力(雷など)は一切ない。

「くそっ!」

俺は無様に地面を転がり、岩を避ける。 何か新しい能力が覚醒しないかと念じるが、何も起きない。走って逃げるしかないが、コンクリートの柱の陰に隠れても、ロックマンは次々と岩を投擲し、柱ごと俺を削りに来る。完全にジリ貧だ。

「どうしたどうした! 逃げ回るだけか! 3年前のあの余裕はどうしたんだよ!」

無数の岩が、ついに俺の逃げ場を塞いだ。巨大な岩塊が、俺の頭上へと迫る。

(……終わった)

俺が目を閉じた、その瞬間。

鼓膜を破るような金属音と共に、俺の目の前に分厚い鉄の壁が突き出してきた。 ロックマンの放った岩塊は、その鉄壁に衝突し、粉々に砕け散った。

「な、なんだ!?」

ロックマンが驚愕の声を上げる中、俺の背後から、よく通る、大きく張りのある女性の声が響いた。

オーッホッホッホ! マイ・パートナー! ギリギリで守って差し上げてよ!

俺は呆然と振り返った。 そこに立っていたのは――

豪奢なドレスのような制服を着崩した、金髪で色白の、まるで西洋の令嬢のような女性だった。 彼女は扇子で口元を隠し、俺を見下ろして不敵に笑っている。

「さあ、反撃の時間ですわよ。わたくしの愛しのパートナーさん?」


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