神鳴くんは「こんどこそ」クールを装う 第六話

ブルースターが、あの息の詰まるような沈黙の中で「私のこと、どう思ってるの」と謎の質問を投げかけてきたあの日から、奇妙で、そして酷く神経をすり減らす二週間が始まった。

彼女は文字通り、毎日のように俺の家に現れた。そして、俺の部屋のベッドの上にちょこんと座り込み、判で押したように同じ質問を繰り返した。

「ねえ、響。私のこと……どう思ってるの?」

答えられるはずがなかった。そもそも彼女が葵なのか、葵の顔をした別の何かなのかすら整理がついていない俺にとって、その問いは地雷原のど真ん中でタップダンスを踊れと言われているようなものだ。 だから俺は、ひたすらに『無言』を貫いた。 クールを装う俺にとって、沈黙は最大の防御だ。何を言われても表情を崩さず、ただ窓の外を見つめたり、無意味に本をめくったりしてやり過ごす。 ブルースターもまた、俺が答えないとわかると、それ以上は追及してこなかった。ただ、1時間、あるいは2時間、ベッドの上に静かに居座り続け、そして時間になるとふらりと帰っていく。そんな異様な日々が続いた。

しかし、その二週間は決して「毎日が全く同じ」というわけではなかったのだ。 むしろ、俺の理性と精神力を削り取るための、緻密な拷問のようだった。

ブルースターは、毎日『違う服』を着て現れたのだ。 ある日は、俺の通う高校の夏服。胸元のリボンが少し緩められ、窓からの風にスカートが揺れる様は、同級生との秘密の放課後を幻視させた。 またある日は、清楚でかわいらしい白のワンピース。麦わら帽子を手に持ち、少し上目遣いで尋ねてくる姿は、どこか避暑地のお嬢様を思わせた。 さらに次の日は、ショートパンツにパーカーというスポーティーな格好。あるいは、大きめのTシャツ一枚のようなラフな部屋着姿。 極めつけは、フリルがふんだんにあしらわれたゴスロリ衣装や、どこで買ってきたのかあざとすぎる『猫耳』としっぽをつけた姿で現れた日もあった。

それらの服は、どれもこれも……俺がもし彼女ができたら、いつか着てほしいと脳内の奥底で密かに妄想していた、ピンポイントな『理想のシチュエーション』そのものだった。 偶然のわけがない。妖精国の力か、あるいは彼女の観察眼か。俺の好みを完全にハッキングしているとしか思えなかった。

そして、彼女の攻め手は服装だけではなかった。 「私のことどう思ってるの」というたった一つのセリフを、日によって全く違う声音で投げかけてきたのだ。 氷のように冷たく、見下すような視線で言い放つ日。 ベッドに寝転がり、甘ったるい声で縋るように言う日。 頬を膨らませて、いじけるようにかわいらしく言う日。

男の急所を的確に突いてくるその千変万化の姿に、俺の心拍数は毎日限界を突破していた。表面上は無表情なクールガイを気取っていたが、内心では暴れ回る思春期の衝動を必死に鎖で縛り付けていたのだ。

そんな過酷な二週間が過ぎ去った中で、俺の中で確固たる一つの『結論』が導き出されていた。 これだけ手の込んだ真似をして、毎日俺の部屋に通い詰め、俺の気を引こうとする理由。 それは一つしかない。 ――ブルースターは、間違いなく俺のことが好きだ。

そして運命の二週間と一日目。つまり、十五日目。 今日、俺の部屋に現れた彼女は、目を奪われるような豪奢な真紅の『ドレス姿』だった。 まるで夜会に赴く女王のような気品と迫力。彼女はベッドに腰掛けることもせず、俺の目の前に立ち、腕を組んで見下ろしてきた。

「私のこと、どう思ってるの」

その声は高飛車で、「私がわざわざ聞いてあげているんだから、答えて当たり前でしょう?」と言わんばかりの、圧倒的な自信に満ちていた。 その誇り高く、それでいて俺の答えを待ちわびている瞳を見た瞬間、俺の中で張り詰めていた見栄の糸が、ふつりと切れた。

俺はついに、二週間の沈黙を破った。

「……最高のパートナーだと思ってる」

静かな部屋に、俺の低く抑えた声が響いた。 本当は、もっと「愛してる」に近い、直接的な言葉を伝えたかった。お前が誰であろうと、これほど俺を狂わせるお前が愛おしいと。 だが、神鳴響という男の、意地でもクールに見せたいという根深い虚栄心が邪魔をして、ギリギリの照れ隠しとして出力されたのが、このセリフだった。俺の精一杯の譲歩であり、告白だった。

俺にとって、永遠とも思えるような一瞬の空白が落ちた。

ブルースターは、目を見開いた。高飛車だった女王の仮面が音を立てて崩れ落ち、その顔に、年相応の少女のような、ぱあっと花が咲いたような純粋な喜びが広がった。

「……っ、うれしい……!」

感極まったような声を上げ、ブルースターは俺の胸に勢いよく飛び込んできた。 ドレスの柔らかな布地と、彼女の甘い香りが俺を包み込む。背中に回された腕の力強さが、彼女の感情の昂りを証明していた。 俺は大きく息を吸い込み、戸惑いながらも、その抱擁に応えようと、彼女の細い背中に腕を回そうとした。

その、まさに指先が彼女のドレスに触れようとした、その瞬間だった。

「いちゃついてる場合じゃないピカァァァァッ!!」

部屋の空気を粉々に粉砕する、耳障りな甲高い声。 ピカリスが、空気を読むという概念を母親の胎内に忘れてきたかのような勢いで、俺たちの間に物理的に割り込んできた。

「敵からファイトを挑まれたピカ! 今すぐ強制転送が始まるけど、準備はいいピカ!?」

「はぁッ!?」 俺とブルースターは弾かれたように体を離し、お互いの顔と、宙を舞う迷惑な紫の妖精を交互に見比べた。 ロマンチックな雰囲気など欠片も残っていない。俺が文句を言う間もなく、足元から眩い光が溢れ出し、空間が歪み始める。 最悪のタイミングでの強制転送が、容赦なく始まった。

◇◆◇◆◇

視界が晴れると、そこは夕闇に沈む無機質な『ビル街』のど真ん中だった。 コンクリートとアスファルトに囲まれた、生命感のない四角い空間。 そして目の前には、すでに戦闘態勢を整えた敵のコンビが立ちはだかっていた。

一人は、前髪を上げた肩ほどの長さのショートカットに、黒ぶちメガネをかけた真面目そうな女性だった。彼女はなぜか怯えたような様子で、身を縮め、もう一人の女性の背後の片隅に隠れるように立っている。 そして――その前に立つもう一人の女性の姿を見た瞬間、俺は心臓を氷の刃で貫かれたような悪寒を覚えた。

「嘘だろ……」

燃えるような赤いショートカット。 かつて俺と背中を預け合い、そして俺を異常なまでの愛で縛り付けようとした、元パートナー。 赤羽茜(あかばね あかね)がそこにいた。 しかし、彼女の表情はかつてのヤンデレ的な甘さなど微塵もなく、ただ純粋な『怒り』と『憎悪』によって我を失った、夜叉のような形相をしていた。

茜の血走った目が、俺と、そして俺の隣に立つドレス姿のブルースターを交互に睨みつける。 そして、喉の奥から絞り出すような、怨嗟の叫びを上げた。

「どういうことよ……響先輩……!!」

茜の声は、震えていた。 「いつまでたっても、私を迎えに来ない……。私というものがありながら、それどころか、どこの馬の骨ともわからない、そんな『雌猫』を新しいパートナーに迎えて……!」

ギリッと、茜の奥歯が鳴る音が聞こえた。 「さらに、部屋で……あの狭い部屋で、二人きりで、毎日のように過ごすなんて……!! 許さない、絶対に許さない……!!」

怒りと嫉妬のあまり、茜は言葉に詰まり、肩で激しく息をした。 その極限の隙を突くように、背後に隠れていた黒ぶちメガネの女性――ケイが、震える声で鋭く叫んだ。

「茜ちゃん! 今よ、フォーメーションZを展開して!」

ケイの指示にハッとしたように我に返った茜は、両手を勢いよく振り上げた。 「クリムゾンウィップ!!」

茜の両手から、灼熱の炎で編まれた無数の鞭が飛び出す。だがそれは俺たちを直接打つのではなく、俺とブルースターの周囲の地面に突き刺さり、瞬く間に炎の格子を形成した。 炎の鞭はドーム状に結ばれ、俺たちは巨大な炎の檻の中に完全に閉じ込められてしまった。防護網であり、逃げ道を塞ぐ絶対の結界だ。

炎の照り返しの中で、ケイが冷徹な声で続ける。 「私の能力『分析』で視えたわ。男のほうは、最強の能力である『時を止める能力』。そして女のほうは『鉄を操る能力』。……茜ちゃんが以前言っていた、最悪の能力構成の敵よ」

その報告を聞いた瞬間、茜はハッとしたように目を見開き、そしてみるみるうちに顔を真っ赤に染め上げた。それは羞恥ではなく、究極の屈辱と怒りの色だった。

「何よそれ……! 私の知らない、そんなすごい能力を身につけたから、普通の炎しか使えない私はもう『用済み』ってわけ!? だから私を捨てて、そんな鉄の雌猫に乗り換えたのね!?」 茜の誤解は、被害妄想の極致に達していた。 「そうはいくものか……! 私を蔑ろにしたこと、後悔させてあげる!!」

茜は狂ったように叫ぶと、彼女のもう一つの技を発動した。 「イリュージョン!!」

ゆらりと空気が歪み、炎の檻の外側に、茜の姿をした幻体が十、二十と無数に分裂して現れ、俺たちの周囲を完全に包囲した。 どれが本物か、もはや判別はつかない。 そして、無数の茜の幻体が、一斉に手のひらをこちらへ向けた。

「消えなさい、泥棒猫!!」

茜の殺意のターゲットは、俺ではなく、完全にブルースターに絞られていた。 四方八方、360度の死角から、バスケットボールほどの巨大な火球が、豪雨のようにブルースター目掛けて殺到する。

「ブルースター! 鉄の壁を――!」 俺が叫ぼうとしたが、遅かった。 火球の数が多すぎた。そして、炎の檻の中に閉じ込められているため、逃げ場もない。

「あっ――」 ブルースターの短い悲鳴。 次の瞬間、圧倒的な火力が彼女の華奢な体を飲み込んだ。

「ブルースターァァァッ!!」

炎の竜巻が吹き荒れ、視界が真っ赤に染まる。 数秒後、炎が晴れたそこに立っていたのは、美しいドレスも、金色の髪も、透き通るような肌も全て炭化し、黒焦げになって倒れ伏す、ブルースターの変わり果てた姿だった。

「うそ、だろ……」 俺は戦慄し、震える足で黒焦げの体に駆け寄り、膝をついた。ピクリとも動かない。皮膚が焼ける悍ましい匂いが鼻を突く。 クールな装いなど、完全に吹き飛んでいた。俺はただの無力な少年に戻り、彼女の体を抱きしめようと手を伸ばし、恐怖に震えた。

炎の檻の向こうから、茜の冷酷で、ひどく愉悦に満ちた笑い声が聞こえてきた。 「あはははっ! 見た!? 雌豚が、見事な焼き豚になったわね! これで理解できたでしょう、先輩? 先輩の隣にふさわしいのは、私だけだってことが!」

茜は恍惚とした表情で、自らの炎の鞭を舐め上げた。 「私のパートナーのケイは、完璧な『分析』の力があるの。だから、あんたらの手の内はすべてお見通しだったのよ。鉄の能力なんて、私の圧倒的な炎の前じゃ、溶けてドロドロになるだけだってね!」

愛する(かもしれない)女を目の前で焼き殺された絶望と、かつてのパートナーの狂気に、俺の意識が暗い泥に沈みそうになった、その時だった。

『……絶望するのはまだ早いピカ』

頭の中に、ピカリスの冷静な声が直接響いた。 『響。君の最強の能力に、第二の必殺技が解放されたよ。使い方は……魂で理解できるはずピカ』

その瞬間、俺の脳内に膨大な情報が濁流のように流れ込んできた。 時の概念、因果律の操作、エントロピーの逆転。 時を「止める」だけだった俺の能力が、怒りと絶望を触媒にして、さらなる深淵へと進化を果たしたのだ。

理解した。 俺は、目の前で黒焦げになっているブルースターの体に、両手を強く押し当てた。 「……戻れ」

俺の両手から、時計の歯車を思わせる金色の魔法陣が展開され、ブルースターの体を包み込んだ。 そして、奇跡が起きた。 炭化した皮膚が剥がれ落ち、その下から白い肌が再生していく。焼失したドレスの繊維が空中で織り直され、焦げた髪が元の黄金色を取り戻していく。 文字通り、ブルースターの肉体の時間だけが『怪我をする前の状態』へと急速に巻き戻されていったのだ。

数秒後。 そこには、火傷一つない、元の健康な状態に戻ったブルースターが、静かに息を吹き返して横たわっていた。

「……響……?」 ゆっくりと目を開けた彼女を見て、俺は安堵に口元を綻ばせた。

だが、代償はあまりにも重かった。 「がはっ……!!」 時間を遡行させるという神の領域の技は、人間の肉体が耐えられるものではなかった。俺の全身の筋肉が断裂するような激痛に襲われ、魔力が完全に枯渇し、肺から空気が抜け出ていく。 俺は血を吐き、ブルースターの横に力なく崩れ落ちた。 当面の間、時を止めることも、動かすことも、すべての能力が使えないほどの絶対的な疲弊状態に陥ってしまったのだ。

「響!! どうして、あんな無茶を……!」 ブルースターが起き上がり、動けない俺を抱きかかえる。

その信じられない光景――焼き殺したはずの恋敵が無傷で蘇った姿を見た茜は、再び顔を真っ赤に怒張させ、髪を振り乱してヒステリックに叫んだ。 「なによそれぇぇぇっ!! また私の知らない力で、私をコケにする気!? 許さない許さない許さない!! 今度こそ、灰も残さず消し飛ばしてやる!!」

茜がさらなる炎を練り上げようとした、その隙だった。 俺の腕の中で、ブルースターがゆっくりと立ち上がった。その青い瞳には、俺を傷つけられたことに対する、絶対零度の静かなる激怒が宿っていた。

「……私のパートナーに手を出したこと。万死に値するわ」 ブルースターの声は、凍りつくほど冷たかった。 「お返しよ。私も、新しい技ができたわ」

彼女は、扇子を天高く掲げた。 「降り注げ。――【黒い雨(アイアン・レイン)】」

その瞬間、上空の雲行きが怪しくなり、ビル街の空が真っ黒に染まった。 空中の砂鉄、周囲のビル群に含まれる鉄骨、ありとあらゆる鉄分が彼女の魔力によって上空に吸い上げられ、無数の『黒い刃』へと形を変えた。 文字通り、空を覆い尽くすほどの鉄の豪雨が、茜たちに向かって降り注ぎ始めた。

「なっ……!?」 空を見上げた茜の顔が、絶望に染まる。全方位からの鉄の刃。炎の檻の中にいる彼女自身が、今度は逃げ場のない標的となったのだ。

刃が降り注ぐ、まさにその刹那。 「茜ちゃん、危ないッ!!」

茜のパートナーであるケイが、茜の体を突き飛ばした。 茜が驚いた顔で地面に倒れ込んだ、次の瞬間。

ズガガガガガガガッ!!!

凄まじい轟音と共に、無数の鉄の刃が地面に突き刺さった。 そして――茜を庇ったケイの体は、数十本もの黒い鉄の刃によって、文字通り『串刺し』にされていた。

「ケ……イ……?」

血の海の中に崩れ落ちるケイ。彼女はピクリとも動かない。 茜は、目を丸くしてその光景を見つめ、あわてふためくようにケイの体に手を伸ばしたが、すでに彼女の命の炎は消え去っていた。

自分を庇って死んだパートナーを前に、茜はガクリと肩を落とし、その場にへたり込んだ。 両腕がだらりと下がり、戦意を完全に喪失したように見えた。

(……終わったか) 俺も、全身の激痛に耐えながら、ようやく戦いが決着したのだと、深く息を吐き出して肩を落とした。 ブルースターも、扇子を下ろし、警戒を解きかけた。

しかし、俺たちが安堵したのも、ほんの一瞬だった。

「……あはっ」

静寂に包まれたビル街に、ひどく乾いた笑い声が響いた。 へたり込んでいた茜の肩が、小刻みに揺れている。

「あはは……あははははははははははッ!!!」

茜は立ち上がり、天を仰いで狂ったように大笑いをし始めた。その笑い声は、悲しみでも怒りでもなく、すべての理性が完全に崩壊した音だった。 ひとしきり笑い狂った後、茜は首をゴキリと鳴らしてこちらを向き、瞳孔の開いた目で、俺たちをねっとりと睨みつけた。

「……もう、どうでもよくなっちゃった。響先輩も、あの雌猫も、私も、この世界も。ぜぇんぶ、まとめて燃えちゃえばいいのよ」

茜の体が、内側から異常な高熱を放ち始めた。彼女の赤い髪が炎そのものと同化し、周囲のコンクリートがドロドロに溶け始める。

「貴様ら、生かしておくものか……!! 地獄の底まで、一緒に連れて行ってあげる!!」

茜は両手を広げ、最期の絶叫を響かせた。 「【スーサイド・ボルケーノ】!!!!」

ゴゴゴゴゴゴ……!!! 大地が激しく揺れ始めた。茜の体を起点として、街一つを消し飛ばすほどの、規格外の超高圧縮された炎のエネルギーが膨張していく。 自らの命と引き換えに放つ、究極の自爆魔法だ。

「響!」 ブルースターが焦燥に駆られた声を上げる。俺は能力が使えない。このままでは、確実に消し飛ぶ。

だが、俺の頭脳は、極限状態にあっても極めて冷徹に回転していた。

「ブルースター!」俺は叫んだ。「一番大きくて、分厚い鉄の壁を、俺たちの目の前に張れ!! 視界を完全に遮るんだ!!」

「えっ!? で、でも、あんな熱量の爆発、鉄の壁じゃ数秒で溶かされて……」

「いいからやれ!! そして、壁を作ったら……俺を担いで、全力で反対方向に走れ!!」

俺の意図を汲み取ったブルースターは、頷くと同時に残った全魔力を注ぎ込んだ。 「展開!!」 ズゴォォォン! と、ビルの三階ほどの高さを持つ、極厚の巨大な鉄の壁が、俺たちと茜の間に立ちはだかった。

壁の向こう側から、限界を超えた茜の狂笑が聞こえる。 「無駄、無駄、無駄ァァァッ!! そんな鉄の板切れで、私の愛の炎が防げるわけないでしょぉぉっ!!」

力を限界まで溜め込んだ数秒後。 茜の体を中心に、太陽が落ちたかのような、超大規模な大爆発が発生した。 閃光。轟音。そして、すべてを焼き尽くす熱波。 ビル街の窓ガラスが弾け飛び、アスファルトがめくれ上がり、巨大な鉄の壁も瞬く間に飴細工のようにドロドロに溶かされ、爆風が周囲一帯を完全に吹き飛ばした。

焦土と化したビル街。 中心には、力を使い果たし、自爆の余波で全身を焼き焦がした茜が、ピクリとも動かずに倒れていた。

……しかし。 その爆心地から数百メートル離れた、頑丈なビルの陰。

そこには、間一髪で爆発の範囲外へと逃れ、無傷で座り込む俺と、俺を背負って走ったブルースターの姿があった。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ。助かった、の……?」 息を切らすブルースターの隣で、俺は壁にもたれかかり、疲労困憊の体で小さく息を吐いた。

「ああ……。技の名前から、内容は容易に想像がついたからな」 俺は、震える膝を必死に隠しながら、わざとらしく前髪をかき上げた。

「『スーサイド(自殺)』のボルケーノ。自爆技だと予想がつけば、鉄の壁を囮にして視界を塞ぎ、ただ爆発の範囲外まで全速力で離れるだけで解決できる」

俺は、瓦礫の山と化し、半壊したバトルフィールドを見下ろしながら、皮肉げな笑みを浮かべて呟いた。

「怒りに我を忘れて、周囲の状況が見えなくなっていたな。……浅はかだったな、茜」

全身の骨が軋み、魔力枯渇で吐き気が止まらない。今すぐベッドで三日三晩眠りこけたい気分だった。 だが、隣で俺を尊敬の眼差しで見つめるパートナーの手前、俺は半壊した戦場の中で、限界まで『クールを装う痩せ我慢』を貫き通すのだった。


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