神鳴くんは「こんどこそ」クールを装う 第八話

あの茜との凄惨な死闘から、数日の後。 俺とブルースターが、いつものように特訓に励んでいた時のことだ。

連携の精度は、茜戦以前とは比較にならないほど向上していた。解き戻しの代償を減らすために、時間の巻き戻しの精度を上げ、魔力運用を最適化する特訓に集中していたのだ。

そこへ、紫色の妖精、ピカリスが、いつものように空気を読まず、空を飛んで現れた。その顔は、何やらとても嬉しそうだ。

「響! ブルースター! ついに最終決戦の日程が決まったピカ! 明日午前九時にスタートピカ!」

ピカリスは、俺たちの前でくるくると回りながら、高らかに告げた。 その言葉を聞き、俺とブルースターは、無言で頷きあった。特訓の成果をぶつける時が、ついに来たのだ。 その日は、ピカリスの報告を聞き、早々に特訓を切り上げた。最後の戦いに向けて、お互いに休息をとるためだ。


その夜。 神鳴家の俺の部屋。

明日が最終決戦だというのに、俺の頭の中には、翌日の戦いのシミュレーションなど、欠片もなかった。

(……明日、優勝したら。……俺は、ブルースターを、人間にする。……そしたら、俺はあいつに、……『好きだ』って、……告白する)

妄想は止まらない。 プロテクトが外れ、俺を人間にする希望を見出したブルースターの瞳が、俺への愛で満ちていく。制服から、ワンピース、ゴスロリ、猫耳……。様々なコスチュームを着たブルースターが、俺に甘えてくる。

茜の夜叉のような形相が一瞬だけ頭をよぎったが、ブルースターへの想いが、それを完全に塗り潰した。 俺は、ブルースター救済という傲慢な使命感と、あいつと愛し合うハッピーエンド妄想に、一人ベッドで悶々とした日々を過ごしていた。

妄想だけで、夜が更けていく。


翌朝、午前八時半。 神鳴家の玄関。

チャイムが鳴り、俺が玄関を開けると、そこにはフリル付き制服を着た金髪縦ロールの令嬢――ブルースターが立っていた。 清楚で美しい姿だ。

俺は、彼女を俺の部屋に通し、キッチンでお茶を淹れて出した。

「ブルースター。……槍のような武器と盾を作ってくれ」

俺は、彼女の目を真っ直ぐに見つめ、クールに言った。 「もし、前回の決勝と一緒だったら。……最初に、全員近くに転送される。であれば……射程距離の長い獲物があれば、……うまくいけば、瞬で俺らの優勝は決まりだ」

信頼関係ができたブルースターは、静かに応じた。

「かしこまりましたわ」

そう言うと、彼女は扇子を振り、俺の手元に、なぎなた状の槍と、円形の盾を生成した。

そこへ、ピカリスが、いつものように空気を読まず現れた。 「そろそろ時間ピカ! 二回連続優勝、期待しているピカ!」

その言葉を聞き、俺は口には出さなかったが、ピカリスへの不信感を抱いた。 (ピカリスは妖精王の傀儡。敵まではいかないが、味方ではない。上からの言いなりで、何をするかわからない油断がならない)

そう考えているうちに、転送の光が俺たちを包み込んだ。


気が付くと、俺たちは、遊園地のようなファンシーな空間にいた。 日本の遊園地でも、ここまで広大で、ファンシーな空間はピンとこない。巨大なメリーゴーランド、観覧車、お菓子の家。

そして、周囲には誰もいない。だが、目の前には、ブルースターとピカリスが立っている。 さらに周囲を見ると、ピカリスの仲間のような妖精が、あちこちに浮かんで、俺たちの様子を眺めている。

色々考えていると、どこからともなく、大きな声が響き渡った。

「皆さん! 転送は無事完了しましたか? こちらは妖精バトル大会運営本部です! 担当の妖精から聞いていると思いますが、今回の戦いは、最終決戦です!」

それは、テンションの高いアナウンスだった。

「最初に、皆さん今の状況が気になりますよね。この空間は、皆さんがずっと気にしていた妖精国です! 最後の戦いは妖精国が舞台です。回りには、敵が見えないとおもいますが、以前の戦いの反省点から、すぐに戦闘態勢で不意打ちで負けないように、全組、視界内にはおりません!」

「……くそッ!!」

俺は、薙刀を握り締め、悪態をついた。 瞬殺計画は言葉には出さなかったが、やはり対策されていたか。

アナウンスは続く。 「簡単にルールを説明させていただきます。とにかく、最後まで生き残った組が優勝です。しかし、この広い空間で、無制限に逃げることもできてしまいます。そこで、皆さんには、視界に入っている、大きなお城、我々の『妖精城』そちらを目指してもらいます。一定時間ごとに、妖精城に距離が一番遠い組は脱落となりますのでお気を付けを!」

アナウンスと共に、ファンシーな遊園地の奥に、荘厳な妖精城の姿が現れた。

「それでは、妖精ファイトー! レディー! ゴー!!」

ちょっとついていけないテンションのアナウンスが流れたかと思ったが、既に戦いは始まったようだ。

「とりあえず。……すぐに移動を始めよう。のんびりしていると、ルールで強制退場だ」

俺は、薙刀と盾を構え、ブルースターに指示をした。 ブルースターは頷くとともに、提案を行った。

「そもそも私は妖精国の地理を理解しています。私の後についてきていただければと思います。更に言うと、各国民は我々を見張っていて、我々の戦いを楽しんでいます」

彼女は、俺に手を差し出した。 「さあ、手を恋人つなぎでつないでいきましょう」

「……はぁ?」

俺のリードしようというプライドは一瞬で打ち砕かれ、幼稚園児のようにブルースターに手を引いてもらうことになった。 スイスイと妖精城に近づいていく。

(……遊園地デートみたいだな)

心の中で、ニヤニヤ妄想が膨らんでいく。 少しでも戦いを考えているように、俺はくだらない指示を与えた。

「……槍はもういいから。扱いやすい、1mぐらいの鉄棒に変えてくれ」

ブルースターは無言で、俺の手元の薙刀を、1mぐらいの鉄棒へと変更した。

なんの盛り上がりもないまま、30分程度道を進んでいく。


すると、突然、ブルースターが倒れた。

「な……ッ!?」

俺は一瞬で集中し、視界に人が一人映るのを捉えた。そこですべてを理解する。 前回決勝でたたかった、時を止める敵、最強の敵が現れたのだ。

しかし、この事態は考えていた俺は、一瞬で理解し、「時」を止めた。

「……『時』よ、止まれ!!」

静止した世界。 俺は、鉄棒を握り締め、時を止めたまま接近してきた最強の敵の頭を、思い切り殴りつけた。

すぐさまパートナーを探す。道の奥から、覗き見ている緑髪の女を見つける。 射程外だ。俺は、時が戻る前に鉄棒を全力で投げつけた。

「時よ、動け」

時が戻った瞬間、目の前から飛んでくる鉄棒を避けられず、緑髪の女は倒された。 敵を倒したことを確認した後に、すぐにブルースターを見ると、脇腹から血がにじんでいる。

「……ブルースター!!」

ブルースターには、何も代えられない。後先を顧みずに、俺は「時戻し」を発動し、ブルースターの傷を治した。

「……響……」

ブルースターは微笑み、すべてを理解して、足手まといになったことを後悔する表情を浮かべた。

俺は黙って、ブルースターを抱きしめる。 まだ、戦いは終わっていない。


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