「初めて世界で超能力者が発見された」というニュースは、またたく間に地球全土を駆け巡った。
その後、次々と見つかる超能力者たち。しかし世界は、ただ「異能の力を持つ」というだけで、犯罪者でもない彼らをどう扱えばいいのか、完全に持て余していた。 力の規模はあまりにもまばらだった。ちょっとした手品でしかない微弱なものから、一歩間違えれば大惨事を引き起こすような危険な能力まで、千差万別だった。
そんなある日、一つの悲劇が起きた。 世界有数の巨大ビルが、跡形もなく崩落したのだ。引き金を引いたのは、自分が超能力者であることすら自覚していなかった、一人の少年だった。
少年の能力は、氷を操る力。能力そのものは決して街を丸ごと破壊するような大それた規模ではなかったが、運悪く、ビルの地下一階にある「もっとも重要な一本の柱」を凍らせ、崩壊させてしまった。 支えを失った巨大ビルは、自らの重みに耐えきれず、まるでドミノのように倒壊していった。ほんのわずかな事故が、何千もの巨大な犠牲を生み出したのだ。
この未曾有の災害を契機に、国連は重い腰を上げ、超能力者の強制的な管理に乗り出した。 目的は「超能力者の保護」と「能力の研究開発」。人類の未来を照らす希望の光であれ、という願いを込めて、その隔離施設は『プロメテウス』と名付けられた。
施設に最初に保護されたのは、あの巨大ビルを崩落させた青い髪の少年だった。 少年は凄惨な大事故のニュースがテレビに映るたび、自責の念に駆られ、精神を狂わせそうになっていた。やがて彼は、誰に対しても完全に心を閉ざすようになる。周囲の大人たちからの白い目から逃れられるプロメテウスへの隔離は、当時の彼にとって、唯一の救いでもあった。
それから一年近くが経過した。 施設に集められる超能力者は、一人、また一人と増えていった。大人の超能力者は保護を拒否して逃亡する者が多かったため、プロメテウスの中は自然と、行き場のない少年少女たちで溢れかえるようになった。
複数人で構成される相部屋の中で、青い髪の少年の部屋は「4人一部屋」だった。 メンバーは、水色の髪の少女、赤い髪の少年、そして桃色の髪の少女。
赤い髪の少年が初めてその部屋にやってきた日、彼は底抜けに明るい声で言った。 「俺は赤井爆(ばく)! よろしくな!」
元気に右手を差し出す爆。しかし、ベッドに座る青い髪の少年は、その手を一瞥しただけで完全に無視した。 「ちぇっ、暗い奴だな。じゃあ、君は?」
爆は苦笑しながら、隣のベッドにいる水色の髪の少女に声をかけた。だが、彼女もまた膝を抱えたまま、微動だにせず無視を貫く。 最後に爆が桃色の髪の少女へ視線を向けると、彼女はキッと鋭い目で爆を睨みつけ、ピシャリと言い放った。 「あたしに気安く話しかけんんじゃないよ!」
部屋の空気は、初日から最悪だった。
それからは、単調で息の詰まる毎日が始まった。 「訓練」と称して朝から広場に集められ、超能力を使わされ、終われば自室に帰る。ただそれだけの繰り返し。 爆は得意げに、自らの体から激しい炎を操ってみせた。すると、それに張り合うかのように、桃色の髪の少女・シルフが横から鋭い突風を放って爆の炎をかき消し、邪魔をする。それは周囲から見れば喧嘩のようでもあり、子供特有のじゃれあいのようでもあった。
しかし、それを遠巻きに眺める青い髪の少年と水色の髪の少女の二人は、一度として能力を出すことができなかった。 青い髪の少年は、少しでも氷の力を出そうとすると、あの日のトラウマがフラッシュバックし、過呼吸を起こして錯乱してしまう。 一方、水色の髪の少女が恐怖に怯えながら能力を使おうとすると、生み出された雪は一瞬にして鋭利な氷の刃へと変貌し、彼女自身の肌を深く突き刺して傷つけた。
二人は揃って、まともに能力を使うことができない落ちこぼれだった。
そんな日々が数ヶ月続いた。 当初、プロメテウスの管理者側も超能力者をどう扱えばいいのかが分からず、ただ適当に力を遣わせているだけだった。しかし数ヶ月も経てば、能力の高い者、低い者、そして劇的に成長する者と、全く変わらない者との差が顕著になっていく。
時を同じくして、施設の外の世界では超能力者への恐怖がますます肥大化していた。世論の批判の矛先は、生ぬるい『プロメテウス』の管理体制へと向けられるようになる。
危機感を覚えた施設の管理者は、副管理者へと相談を持ちかけた。管理者は天下りでやってきただけの無能な役人だったが、その副管理者は民間から招聘された「天才」だった。 金髪をオールバックに整え、常に薄薄と笑みを浮かべる男——名を、シーザーといった。
シーザーはにやけた顔のまま、管理者に一つの冷酷な進言をした。 「超能力者の『能力向上』を分かりやすく管理し、軍隊式の明確なスコアとして外部に報告できる体制を作れば、世論も納得するのではないでしょうか?」
その進言が通った翌日から、指導は苛烈さを極めるものへと変わった。
爆たちのチームでは、未だに能力を一切使えない青い髪の少年と水色の髪の少女が、教官たちの標的となった。 「使えない化け物め!」 激しい罵詈雑言と共に、黒い警棒が容赦なく二人の幼い肉体を殴りつける。 「やめろッ!」
爆とシルフは教官の前に立ちはだかり、必死に二人を庇おうとした。だが、子供の細い腕では大人の暴力を止めることなどできず、彼らもまた警棒で激しく打ち据えられた。 それでも爆たちは、教官に歯向かうことを決してやめなかった。結果として、罰はいつも4等分に分けられることになった。
もし、超能力を本気で「人」に向けて使えば、その圧倒的な力で教官たちを止めることもできたはずだ。しかし、この施設にいる子供たちは全員、施設に入る前に能力のせいで大事な人を傷つけたショックを抱えていた。 だからこそ、彼らはどんなに殴られても、その力を人間に向けて使うことだけはできなかったのだ。
それから数日が経った、ある日の訓練中。 いつものように、水色の髪の少女は自らの力によって、自身の腕を氷の刃で傷つけ、鮮血を流していた。 「また失敗か! この出来損ないが!」 教官が激昂し、少女に向けて容赦なく警棒を振りかざす。
その瞬間。 鋭い破砕音と共に、二人の間に割って入った影があった。 青い髪の少年だった。
少年の掲げた左腕から、一瞬にして強固な氷の盾が形成され、教官の警棒を完璧に弾き返したのだ。 驚愕する教官を無視し、青い髪の少年は目の前で怯える水色の髪の少女の手を優しく包み込んだ。
「氷は、敵じゃない……」 少年は、これまで聞いたこともないほど静かで、温かい声で囁いた。 「これは、僕らを守ってくれる……優しい盾だ。怖がらないで、意識してごらん」
その言葉が、少女の心を包んだ。 次の瞬間、少女の手から溢れ出たのは刃ではなかった。柔らかく、温かい光を帯びた純白の雪の膜が、そっと彼女の周囲を包み込んで守る。 二人は、初めてお互いの顔を見て、にっこりと笑い合った。
その日の夜、静まり返った自室のベッドで、水色の髪の少女が消え入りそうな声で呟いた。 「……いつも、ありがとう。私の名前は、ユキ」
その言葉に応えるように、あの事故以来、誰にも名を明かさなかった青い髪の少年が、初めて自らの口を開いた。 「僕の名前は、アイスマン」
二人は言葉を失くし、ただ静かに、互いの瞳を見つめ合った。
「……あー、ゴホン!」 不意に、隣のベッドからわざとらしい咳払いが聞こえた。桃色の髪の少女、シルフだった。 「ちょっと、私たちもここにいるんだけど?」
しばしの沈黙の後、部屋の中には4人の弾けたような笑い声が響き渡った。 爆はここぞとばかりに、少し胸を張り、リーダーのような威厳を込めて語りかけた。 「なぁ……俺たちはもう、本当の家族の元には帰れないだろ。だったらさ、俺たち4人で『家族』にならないか?」
「ごめん被る」 アイスマンが即座に、平淡な声で断る。 「ちょっと、アイスマン!」 ユキが慌ててアイスマンの袖をきゅっと掴み、頬を赤らめながら照れくさそうに言った。 「私は……アイスマンとなら、お兄ちゃんと妹になりたい、かな」 袖を引っ張られたアイスマンは、仕方がないなというように、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「ちょっと、爆君」 今度はシルフが、少し顔を背けながら照れくさそうに言った。 「……だったら、あたしがあなたのお姉さんになってあげようか? あたしも、もう家族はいないし……それに、この名前も大嫌いだから」
それを聞いた爆は、ニカッと得意げな満面の笑みを浮かべた。 「わかった! じゃあ、シルフは今日から俺の妹だ。名前は……『赤井風』な!」
「はぁ!? なんであたしが妹なのよ、お姉さんでしょ!」 風が不満げに頬を膨らませる。爆はわざとふざけた顔をして肩をすくめた。 「だってさ、俺のお姉さんになる人は、もっとこう……大人っぽくて美人な人がいいもんね!」 「なっ……! あんた、ぶっ飛ばすわよ!」
風がベッドから飛び起き、爆の頭をポカポカと叩く。それを見てアイスマンとユキも小さく笑っていた。
狭く冷たいコンクリートの部屋。しかし、その夜の彼らの周りには、世界のどこよりも温かい笑い声が満ちていた。 それから始まる3年間。それは、過酷な運命を背負った彼らにとって、生涯で最も美しく、最も幸せな3年間であっただろう。
しかし——そんな奇跡のような幸せな時間が、長く続くはずはなかった。

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