陰キャが異世界転生してモテモテ勇者に 羨望の鍛冶師の章その4

空から舞い降りた琥珀色の首飾り——最後の神器『大地の護り』がユウの手のひらに収まった瞬間、静まり返っていた大地の祠に、爆発するような歓声が沸き起こった。

これでついに、世界に散らばっていた三種の神器がすべて揃ったのだ。 真っ先に感極まった声を上げたのは、シスターのきらりだった。彼女は両手を組んで天を仰ぎ、まるで狂ったように歓喜に震えていた。 「ああ……っ! ついに、ついに我が教団の経典に記されし伝説が実現いたしましたわ! まさかこの私が、神話の再現に立ち会うことができるなんて……!」

ボロボロと感激の涙をこぼすきらりを、隣で腕を組んだガオンが呆れたような冷ややかな目で見つめる。 「おいおい、俺たちの本当の目的は魔王討伐だろ? ただ道具が揃ったってだけで、いちいち大げさに興奮するなよな」 「まあまあ、いいじゃないかガオン君!」 そこへ、嬉しそうに目を細めたファーサが笑顔で言葉を被せた。 「数百年ぶりに、勇者殿が三種の神器をすべて集めきったんだ。歴史に残る喜ばしい快挙なんだから、ここは素直に皆で喜ぼうじゃないか!」

ファーサの言葉に、ユウも照れくさそうに笑いながら首飾りを高く掲げた。 それを合図に、アタシたちは改めて空へ向かって勝利の雄叫びを上げ、肩を叩き合い、子供みたいに飛び跳ねて歓喜に踊った。

ひとしきり喜びを分かち合ったところで、アタシはゴホンと咳払いをして皆に提案した。 「よし、目的のブツも手に入ったことだし、一旦アタシたちのドワーフの町に戻ろうぜ!」 誰も異論はなかった。アタシたちは再び『忘れられた街』を抜け、坑道の転送装置を使ってドワーフの町へと帰還することにした。

全員が浮かれ気分でドワーフの町へと戻ると、町はすぐさま蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。 昨日の今日で、伝説の『火山の剣』に続いて『大地の護り』まで手に入れて戻ってきたのだ。頑固者のドワーフたちも、歴史上初めての事態に町を挙げて歓喜に震えていた。

しかも、アタシに対する町の男どもの態度は、出発前とは文字通り手のひらを返したような変わりようだった。

「おおっ、流石はこの町きっての天才鍛冶師、キンカだ!」 「いやあ、女だからこそ、あれほど繊細で最高の魔導武器が作れるんだなあ!」 「実はな、俺はお前の才能に昔からずっと注目してたんだよ、ハッハッハ!」

行く先々で、ドワーフの職人たちが擦り寄ってきては好き勝手な世辞を並べてくる。 けれどアタシは、そんな調子のいい言葉の数々を右から左へ聞き流しながら、まったく別のことを考えていた。

——勇者、ユウのことだ。

正直に言えば、アタシは最初、ユウのことを「ただ運良く勇者に選ばれただけの、自分じゃ何もできないひ弱なガキ」だと思っていた。ファーサの関心も、古代の天使の力も、全部『勇者』っていう生まれつきの肩書きだけで横取りしていく、気に入らない奴だと。

だけど、あの日見たあいつの背中は違った。 アタシが足がすくんで震えるほど焦った、あの二十メートルの巨大なマッドゴーレムが現れた時……誰よりも早く声を上げて真っ先に前へ飛び出してくれたのは、ユウだった。 アタシたちが再生能力に絶望し、不安に押し潰されそうになった時も、あいつはいつだって最前線で身体を張って突き進み、アタシたちに安心と勇気を与え続けてくれた。あの鉄の人形が自爆しようとした時だって、本気で怒って「仲間だ」と言い切った。

翻って、アタシはどうだっただろう。 『女だから』『ドワーフの古いしきたりがあるから』と、自分の置かれた環境や生まれの不満に文句を言い、周りを妬んでばかりいた。 環境が大事だ、生まれが大事だと、ずっとそう思い込んでいたけれど……それは、アタシの勝手な言い訳に過ぎなかったんだ。 本当に大事なのは、どんな逆境でも折れずに前を向く『自分自身の強い気持ち』なのだと、アタシはあの年下の少年の背中に、嫌というほど教えられたのだった。

その日の夜、町の中央広場で盛大な祝勝の宴が開かれた。 広場には巨大な焚き火が焚かれ、樽ごと運ばれてきたエールと山盛りの肉料理を前に、皆が思い思いに宴を楽しんでいた。 ガオンは両手に骨付き肉を持ってドワーフの豪快な食事を片っ端から平らげ、きらりは長老たちが語るドワーフに伝わる古い勇者伝説に目を輝かせて聞き惚れている。そしてファーサも、自慢の社交性を発揮して町のいろんな連中とグラスを交わし、楽しそうに笑い声を上げていた。

ただ一人、主役であるはずのユウだけは、ドワーフたちの暑苦しくて騒々しいパーティーの空気にどうにも馴染めなかったらしく、苦笑いを浮かべながら早々に宿へと引き上げていった。 そしてアタシもまた、寄ってくる男どもの見え透いたおべんちゃらにすっかり嫌気が差し、宴会場を抜け出して自分の工房へと帰ってきた。

静まり返った工房の椅子に腰を下ろし、アタシは一人でずっと考え事をしていた。 炉の残り火を見つめるうちに、アタシの胸の奥には、ある一つの揺るぎない『結論』が出ていた。

(……よし。行こう)

アタシは立ち上がると、夜の冷たい風を切って、ユウたちが泊まっている宿屋へと単身乗り込んだ。 足音を忍ばせて二階の廊下を進み、ユウの部屋の扉をそっと開ける。 部屋の中はすでに暗く、ユウはもう眠る寸前だったのか、一人でベッドの布団の中に潜り込んでいるところだった。

「……おい、ユ……ユウ」

アタシが緊張で掠れた声をかけると、布団の中からユウが寝ぼけた様子でひょっこりと顔を出した。 「んあ……? な、なーにー……? って、キンカさん?」 アタシは拳をぎゅっと握りしめ、ありったけの勇気を振り絞って、勇者——いや、ユウに話しかけた。

「その……アタシもさ、あんたたちの『仲間』に入れてほしいんだよ。あんたと一緒に、魔王討伐の旅についていきたいんだ」

突き返されるかもしれないと身構えていたアタシに、ユウは目をぱちくりさせると、拍子抜けするほどあっさりと笑顔で頷いた。 「え、本当に? うん、わかったよ! キンカさんが来てくれるならすごく心強いし、じゃあ明日の朝、みんなにその話をするからさ」

「……っ、そうか」 アタシはゴクリと生唾を飲み込み、さらなる決意を固めて一歩ベッドへと近づいた。 「で、さ……。あんたの仲間になるってことは……つまり、あんたのすべてを『受け入れる』ってことだろう?」 「う、うん……?」 アタシの妙に真剣な剣幕に気圧されたのか、ユウは布団をまくって寝床から起き上がり、不思議そうにアタシをじっと見つめた。

「アタシだって、子供じゃないんだ。ユウの仲間になるってことが、どういうことかくらい分かってるよ……!」

昼間、ファーサやガオンやきらりが、当たり前のようにユウの身体にベタベタと密着していた光景が脳裏をよぎる。英雄とは、そういう風に仲間の女たちと深く結ばれるものなのだ。 アタシは意を決すると、震える手でオーバーオールの留め具を外し、着ていた服をすべて脱ぎ捨てて、月明かりの下で一糸まとわぬ姿になった。

鍛冶で鍛えた小柄な肉体が夜気に晒され、恥ずかしさで頭の先まで体温が急上昇していくのを感じる。 アタシは顔を真っ赤に染め、ユウの顔をまともに直視できず、自分の足元を見つめたまま蚊の鳴くような声で呟いた。

「ユ、ユウ……。その、アタシはファーサとしか経験がなくて……男は、あんたが初めてなんだ。だから、その……やさしく、してくれよ……っ」

心臓が早鐘のように打ち鳴らされる中、アタシはぎゅっと目を閉じてその時を待った。 ——しかし、数秒後。

「ぼ、ぼく、そういうのじゃないんでッ!! 仲間の話はまた明日ぁっ!!」

布団が吹っ飛ぶ音と、ドタドタッ!という凄まじい足音、そして扉が勢いよく閉まる音が部屋に響き渡った。 恐る恐る目を開けると、ベッドの上はもぬけの殻で、ユウはすでに部屋から脱兎のごとく逃げ出してしまっていた。

「……あれ?」 誰もいなくなった部屋で、素っ裸のままポツンと取り残されたアタシは、呆然と立ち尽くした。 (アタシが思っていた『勇者パーティーの夜の掟』って……もしかして、アタシの壮大な思い込みだったんだろうか……?)

翌朝。 朝の光が差し込むアタシの工房に、旅支度を整えた勇者一行が集まった。 アタシは昨晚の気まずさを必死に押し殺し、ユウの前に進み出て右手を差し出した。

「……今日からアタシも同行する。これからも、よろしくな、ユウ」 「う、うん! こちらこそ、よろしくね、キンカさん!」 ユウも昨晚の裸のインパクトがまだ脳裏に残っているのか、顔をほんのり赤らめて照れたように視線を泳がせながらも、アタシの手をしっかりと握り返してくれた。

晴れて新しい仲間が加わったところで、きらりが杖を高く掲げ、意気揚々と吠えた。 「さあ皆さま! ついに三種の神器がすべて揃い、頼もしいキンカ様も加わりました! これより、宿敵である魔王の討伐へと向かいましょう!」 「おうっ!」と気勢が上がる中、腕を組んでいたガオンが、ふと冷静な声で根本的な疑問を口にした。

「……で、その肝心の『魔王』って、一体どこにいるんだ?」

ピタリ、と全員の動きが止まり、工房の中が気まずい沈黙に包まれた。 誰も、魔王の居場所を知らなかったのである。

その時だった。 沈黙を切り裂くように、隅っこに立っていた鉄の人形——天使【T2K‐007】から、例の抑揚のない機械音声が響き渡った。

『——マスター。魔王城ノ所在地ヲ示ス詳細マップハ、私ノ記憶領域内ニ記録サレテイマス』

「えっ、本当か!?」とユウが振り返る。だが、天使の言葉はそこで終わらなかった。

『尚、ルート案内ノ開始ニ先立チ、三種ノ神器ノ共鳴ヲトリガートシテ、私ノ制限サレテイタ上位機能ガ解放サレマシタ。……特殊能力【メタモルフォーゼ】ガ、アンロックサレマシタ』

天使がそう告げた瞬間、その無機質な鉄のボディが、直視できないほどまばゆい白光に包まれた。 金属が融解し、再構築されるような不思議な駆動音が響き、やがて光が収まると——アタシたちは全員、目ん玉が飛び出るほど驚愕して固まった。

そこに立っていたのは、先ほどまでの鉄のマネキンではなかった。 艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、透き通るような色白の肌をした、息を呑むほどスレンダーな絶世の美女が、涼しげな顔で立っていたのだ。

『マスターノ平時ノ視線誘導、及ビ心拍数データヲ解析シ、マスターノ最モ「好み」ト推測サレル外見へと変形シマシタ』

流暢な女性の声でそう告げる天使。確かに、誰もが振り返るような非の打ち所がない美人だ。 しかし——それを見たユウの反応は、アタシたちの予想の斜め上を行くものだった。

「ひっ……! み、みや……っ!?」

ユウはまるで恐ろしい怨霊でも見たかのように顔面を蒼白にし、ガタガタと震えながら後ずさりしたのだ。どうやら元の世界にいた頃の、よほど強烈なトラウマの相手に瓜二つだったらしい。

怯えるユウを見て、黒髪美女の姿をした天使が小首を傾げた。 『マスター? コノ外見ハ、お気ニ召シマセンカ?』 ユウは涙目で、首がもげそうなほど激しく横に振って拒絶を示した。

すると次の瞬間、天使の身体が再びまばゆい光に包まれた。 光が弾けるように消えると——今度は、派手な金髪を巻き髪にし、健康的な小麦色の肌に、胸元もお尻もはち切れんばかりに肉付きのいい、抜群のプロポーションとは言い切れない、ムチムチな美女へと姿を変えていた。

『再構築完了。マスター、コレデ「好み」ノ姿ニナリマシタカ?』

先ほどとは打って変わったダイナマイトボディを見つめ、ユウはホッと胸を撫で下ろしながら、恐る恐るといった調子で注文をつけた。 「え、ええと……その姿なら大丈夫だけど……。できれば、その機械みたいな丁寧すぎる言い回しも、やめてほしいかな……」

ユウの要望を聞いた金髪美女の天使は、コクリと一つ頷いた。 そして、ぱちりとウインクを飛ばしたかと思うと、満面の笑顔でピースサインを突き出した。

「わかったー☆ じゃあ、うちー、これからマスターにバッチリ従うねー! 魔王城までのマップとか余裕でわかるから、みんなでアゲアゲでよろしくーっ!」

工房の中に、あまりにも軽いギャル語がこだました。 あんぐりと口を開けるユウに、引きつった笑みを浮かべるファーサ、目を白黒させるガオンときらり。 やれやれ、とんでもないのが仲間になっちまったもんだ。だけどアタシは、自分の頬が自然と緩んでいくのを止められなかった。

こうして、騒がしくて頼もしい、アタシたちの新しいチームが結成されたのだった。


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