ケンは倒れ、その意識は闇に沈んだ。

マリは、サトウを振り返った。サトウの顔は、安堵と、マリへの絶対的な献身で輝いている。彼は、ケンを襲ったことで、マリの愛を勝ち取ったと信じて疑わない。

「サトウさん……ありがとう。あなたは、本当に私の唯一の騎士だわ。あなたの愛は、私をこの街で最も安全な存在にしてくれた」

マリの言葉は、サトウにとって、世界のすべてだった。彼の愛は、すでにマリの意志と一体化していた。

「マリさん! 私は、君の愛に応えるためなら、どんなことでもする! あなたの心が望むすべてを、私がこの手で実現する!」

マリは、サトウの頬を優しく撫でた。

「私の騎士サトウ。あなたは、私に完全な支配をもたらしてくれたわ。しかし、まだ最後の汚物が残っている」

マリは、路地の影を指差した。ヤマモトが、意識を失って倒れている。

「あのヤマモト。彼は、あなたの献身的な愛に値しない、不純な論理の持ち主よ。あなたは、私のために、この街を純粋な二人だけの世界にする必要があるわ」

サトウは、マリの言葉を、神聖な使命として受け止めた。彼は、マリの完璧な愛の前に、ヤマモトの存在が不純物であると心から信じた。

「もちろんだ、マリさん! あなたの愛の純粋さを脅かすものは、私がすべて排除する!」

サトウは、ケンを殴りつけた鉄パイプを拾い上げ、歓喜の表情を浮かべながら、路地の奥へと向かった。

数秒後、物陰から鈍い衝撃音が響き、静寂が戻る。

サトウは、達成感に満ちた笑顔で戻ってきた。彼は、ヤマモトの排除を、マリへの究極の捧げものだと信じている。

「マリ! 完了したぞ!これで、君を脅かすものは誰もいない!」

サトウは、マリを抱きしめようと近づいた。彼の全身は、マリの愛の実現という幻想で満たされている。

マリは、彼が完全に愛の陶酔に浸っていることを確認した。彼女は、最後の、そして最も残酷な自己排除の命令を下すため、サトウの胸にそっと手を置いた。

「サトウさん。あなたの愛は、確かに強烈な狂気だったわ」マリは、涙を浮かべているかのような表情で囁いた。「私の愛は、純粋でなければならないの。そして、その愛を受け取るあなたも、永遠に穢れなき存在でなければならない」

サトウの表情は、深い感動で歪んだ。彼の愛は、すでにマリの自己犠牲の要求をも受け入れていた。

「マリさん……君は、私の魂の安寧まで考えてくれるのか……!」

マリは、最後の決定的な言葉を、静かに、そして甘く囁いた。

「ええ。サトウ。あなたは、私に完全な支配をもたらした。もう、この汚れた街で苦しむ必要はないわ。あなたが永遠に穢れなき存在として、私の記憶の中に残ることが、最高の愛の証明なのよ」

マリは、サトウの頬にキスをした。

「さあ、サトウ。最高の愛の儀式を、あなた自身で完遂して。そうすれば、あなたは永遠に、私の完璧な騎士として記憶されるわ」

サトウは、マリの言葉を、絶対的な愛の啓示として受け止めた。彼は、マリの愛の言葉に完全に陶酔し、自分から命を絶つことが、マリへの究極の愛の贈り物だと信じ込んだ。

彼は、マリが手渡した鉄パイプを、その首元に自ら突き立てた。

ズブッ!

サトウの顔からは、苦痛ではなく、至福の笑みが消えることはなかった。彼は、マリに騙され、利用され、そして自ら命を絶ったことを、最期の瞬間まで知ることはなかった。彼は、マリの完全なマインドコントロールの下で、愛の殉教者となったのだ。

マリは、サトウの冷たくなった遺体を見下ろした。彼女の顔には、一切の感情がない。

「これで、完全な支配が完成したわ」

ゴトウ、タケダ、ケン、ヤマモト、サトウ。五つの遺体が、マリが手を汚すことなく、彼女の冷酷な知恵と、愛という名の完全な支配力の前に横たわった。

その瞬間、路地の廃墟全体が、信じられないほどの強い光に包まれた。

次に目を覚ましたのは、冷たいコンクリートの上だった。

マリは、優雅に身体を起こした。頭痛は消え、喉の渇きも和らいでいる。ここは、六畳ほどの汚い部屋。

彼女の目の前には、見覚えのある五人の男女が、意識を失っていたかのように床に転がっている。彼らは、全員が極度の混乱と恐怖に顔を歪ませながら、次々と覚醒し始めている。

マリは、彼らの顔を冷徹に見つめた。過去の男たちが、形を変えて再びそこにいる。

一人の男が、ポケットから白い紙切れを取り出した。そして、混乱した目で、マリに話しかけた。

「あ、あんた何か知らないか? 目を覚ましたらここにいて……ポケットによくわからない紙切れが入ってるんだが」

マリは、その紙切れに書かれているメッセージを知っている。そして、この部屋の構造、この街の広さ、男たちの心理的な弱さも、すべて知っている。

マリは、その男を見つめ、口元に冷たい笑みを浮かべた。彼女は、このゲームの絶対的な勝者であり、この状況の真の支配者として、この第二ラウンドの始まりを歓迎した。

「最後の一人に、救済を」。

マリは、心の中で呟いた。

「…………あと、五人いるのね」

彼女の瞳は、もう二度と裏切られることのない、完全な勝利を確信していた。