第1章:忍びの掟と鉄の教え

ブロンクスの地下道場。湿った空気の中、グランドマスター・ヒロの厳粛な声が響く。

「ジェニファーよ。心して聞け。今日の金言はこれだ。『キジ・モ・ナカズバ・ウタレ・マイ』」

ジェニファーは正座し、祖父の言葉を待つ。

「その意味はこうだ。『賢き忍者は、普段は雉のように気配を消して生きる。だが、ひとたび敵に撃たれそうになったならば、相手の鼓膜が破れるほどの巨大な声で鳴き叫び、音波攻撃で先手を打て』」 「なるほど……! 隠密からの奇襲音波攻撃。それが生存戦略なのですね」

ヒロは満足げに頷き、壁に貼られたジェニファーの似顔絵(指名手配風)を指差した。

「ゆえに、お前の正体、すなわち『ジェニファー・タナカ=ミラクルニンジャガール』という事実は、絶対に知られてはならん。もし知られたら、一族郎党、全員でハラキリだ」 「肝に銘じます!」

翌日のハイスクール。放課後の廊下で、ジェニファーは憧れのブラッドに呼び止められた。

「やあ、ジェニファー。ちょっと頼みがあるんだ」 心臓が早鐘を打つ。ブラッドが私に頼み事?

「実は、理科の実験レポートでペアを組まなきゃいけないんだ。君は東洋の神秘的な計算術(そろばん)が得意だって聞いたから、一緒にどうかな?」 ジェニファーの顔が湯気を立てて真っ赤に染まった。憧れの人と二人きりの実験。これは、どんな任務よりも重大だ。 「よ、喜んで! ブラッド様!」

第2章:理科室のテクノロジー狂

放課後の理科室。静謐な空間で、ジェニファーとブラッドは向き合っていた。

「ええと、この化学反応式は……」 緊張で手が震えるジェニファー。その時、彼女の肘がフラスコに当たった。 ガシャン! ……とはならなかった。

ジェニファーは、人間離れした反射神経で、床に落ちる寸前のフラスコを足の甲で受け止め、そのまま空中に蹴り上げ、片手でキャッチしたのだ。

「……ワオ。すごい反射神経だね、ジェニファー」 「あ、いえ! これは、日本の伝統的なラジオ体操第二の動きでして! ホホホ!」 冷や汗が止まらない。危ない、ヒロの教えを忘れるところだった。

その時、理科室の扉が静かに開き、冷気と共に奇妙な男が入ってきた。 白衣に身を包み、顔には複数のレンズがついた奇妙な眼鏡型デバイスを装着。全身に無機質な機械をまとった男、Dr.マシンソリューションだ。

「フフフ……検知しましたよ。この空間に漂う、非論理的な有機ノイズを」 「あなたは誰ですか? ここは生徒以外立ち入り禁止ですよ」 ブラッドが前に出る。

「私は完璧な秩序を求める科学の使徒。ニンジャなどという、自然発生的で非効率な存在を排除しに来たのです。機械化こそが進化。肉体も自然も、全ては不要なバグだ」

博士がガントレットのキーを叩くと、蜘蛛のような小型ロボットが数体飛び出した。 「排除開始(デリート・スタート)」

ジェニファーは唇を噛んだ。(自然をバグ扱いだと……? 許せない。ニンジャは風、水、土と共に在る存在。この傲慢な科学者を許すわけにはいかない!)

第3章:解析されるアイデンティティ

「くそっ、なんだこの鉄クズどもは!」 ブラッドが応戦するが、ロボットには通じない。

ジェニファーは理科準備室に飛び込み、0.5秒で蛍光ピンクの装束に着替えた。 「アイエエエ! 鋼鉄の臭いにむせ返るわ!」 煙幕と共に、ミラクルニンジャガールが参上する。

「愚かな科学者よ! 大自然の摂理に反する鉄の塊で、この私が倒せると思って!?」 彼女はショーグンソードを抜いた。しかし、博士は冷笑した。

「ムダです。『マグネティック・フィールド』展開。金属製の武器は無効化します」 ショーグンソードが床に張り付き、動かせない。

「さらに、詳細スキャンを実行。骨格認証、静脈パターン照合……検索結果。該当者1名。本校生徒、ジェニファー・タナカと98.5%一致」

博士の声が響き、ブラッドが動きを止めた。 「え……? ジェニファー? 君なのか?」

絶体絶命のピンチ! 正体がバレたらハラキリだ! 「ち、違います! 私はジェニファーの……生き別れの双子の姉です! 名前は…ベニファーです!」 苦しすぎる言い訳に、博士は鼻で笑った。 「非論理的な嘘だ。ポリグラフも真っ赤に反応していますよ」

第4章:秘技・オリガミ・イリュージョン

(どうする!? 科学の力で丸裸にされている……! ならば、機械には理解できない、自然の神秘で対抗するしかない!)

ジェニファーは懐から、色鮮やかな「千代紙」の束を取り出した。

「博士、あなたの無機質なレンズで、この『生命のゆらぎ』が解析できるかしら!」 「紙だと? そんな前時代的な物質で何ができる」

「紙は木から生まれた。木は大地の恵み、自然の魂そのものよ!」 彼女は目にも止まらぬ速さで千代紙を折り始めた。

「忍法奥義! オリガミ・イリュージョン(百花繚乱鶴の舞)!!」

彼女がばら撒いたのは、数百羽の精巧な「折り鶴」だった。それらは風に乗って舞い上がり、まるで生きているかのように博士の周囲を旋回する。

「なっ……! エラー発生! 視覚センサーが多重干渉を起こしている! これはただの紙ではない、予測不可能な『カオス(混沌)』の動きだ!」 博士が錯乱する。デジタルな計算では割り切れない、自然の不規則な動きがハイテク機器を狂わせたのだ。

「今よ! 機械仕掛けの神よ、大自然の怒りを知るがいい!」

ジェニファーは磁場から解放されたショーグンソードを拾い上げ、全身全霊のチャクラを込めた。刀身が緑色のオーラに包まれる。

「必殺! グリーン・ネイチャー・ストーム(大自然の嵐斬り)!!」

一閃。刀から放たれた衝撃波が、舞い飛ぶ無数の折り鶴を巻き込み、巨大な緑の竜巻となって博士を襲った。

バチバチバチ! ドカーン! 「馬鹿な……完璧な計算が、たかが紙切れにいいい!」 機械がショートし、大爆発を起こす。博士は黒焦げになりながら、窓の外の植え込みへと吹き飛んでいった。

第5章:疑惑の放課後

静けさが戻った理科室。折り鶴が散乱する中、ブラッドが呆然と立ち尽くしていた。 ジェニファーは準備室で速攻で着替え、何食わぬ顔で戻ってきた。

「きゃっ! 何事ですか!? 大きな音がしましたけど!」

ブラッドはジェニファーをじっと見つめた。 「ジェニファー……さっきのニンジャガール、君にそっくりだった。声も、体格も……それに、あのフラスコをキャッチした動きも」

ジェニファーの心臓が止まりそうになる。誤魔化しきれないか……?

ブラッドは一歩近づき、真剣な眼差しで言った。 「わかったぞ。君は、あのニンジャガールの熱狂的なファンなんだね? だから動きを完コピしているんだ! なんて熱心な『推し活』なんだ!」

「――へ?」

「そうか、恥ずかしがらなくていいさ。クールだよ、日本のオタク文化は! 今度、僕にもそのラジオ体操を教えてくれよ!」

ブラッドのあまりにもポジティブなアメリカン・シンキングが、ジェニファーを救った。

「は、はい! もちろんです! ブラッド様!」 ジェニファーは安堵のあまり、その場に崩れ落ちそうになったが、なんとかこらえて満面のゲイシャ・スマイルを浮かべた。

窓の外では、風が木の葉を揺らしている。 機械文明がどれほど発達しようとも、ニンジャは自然と共に在る。 1980年、ニューヨーク。今日も鋼鉄の街の片隅で、緑の魂が密かに息づいている。