「私の名前はエルリア。今日からこの店の経理および総支配人を務めさせてもらうわ」
青髪のエルフ——エルリアは、眼鏡をクイッと押し上げながら自信満々に宣言した。
「いいこと、あなたたち。これまでのようなどんぶり勘定は絶対に許しません! 私がこの店の経営を根本から叩き直してあげます!」
そう言うや否や、エルリアは店の奥から引っ張り出してきた請求書や仕入れの束を猛烈な勢いで読み漁り始めた。
「むむむ……これは思った以上に深刻ね。その日の気分で値段を決めるなんて言語道断よ。取り急ぎ、正規の価格設定と、誰もが頼める『固定のメニュー表』の作成を行います!」
あまりにもバラバラな仕入れ状況を改善するため、エルリアは「定期的に、かつ安価に入荷できる食材」をベースにしたメインメニューを作るよう俺に命じた。 この地方の気候や流通を考えると、小麦、トマト、そしてヤギの乳(チーズ)であれば、年間を通して安定して入手することができる。
そこで俺は、特定の一部のお金持ちだけでなく、子どもからお年寄りまで様々な世代が手軽に食べられる料理として、『ピザ』をメイン料理にすることを提案した。
「ピザ……? 平たく伸ばしたパン生地に具材を乗せて焼くのね。なるほど、これなら悪徳不動産屋に売りつけられた『無駄にデカすぎる調理場の窯』も最大限に活用できるわ!」
エルリアはパァッと表情を明るくし、さらに商人顔負けの提案をしてきた。
「それに、基本のピザをベースにして、上に乗せる季節の食材を変えれば、いくらでもバリエーションが作れるわ。高級食材をトッピングすれば、さらに客単価のアップ(コストアップ)を図ることもできる! 完璧よ!」
こうして、基本メニューとして数種類のピザが店の看板として並べられることになった。 ……しかし、俺としてはこれだけではどうにも満足できなかった。
(領主様は言っていた。『是非君にはここから羽ばたいてほしい』と。つまり、俺の様々な料理を世界中の人に広めてほしいという、熱い期待の表れのはずだ!)
ピザだけを焼き続けるのは、領主様の思いに反する。 エルリアは「せっかくメニューを固定化したのに、原価率の計算が狂うからやめて!」と猛反対した。 だが、俺はこっそりと仕入れた珍しい食材で、ピザとは全く関係ない『本日のスペシャリテ』を作り、常にメニューの隅に並べ続けたのだ。
当然エルリアは怒ったが、結局のところ、彼女もそれを徹底的に禁止することはできなかった。 なぜなら、前から店に通い詰めている「変態的な舌を持つ謎の常連客」たちは、王道のピザには目もくれず、俺が作るその日限りの狂ったスペシャリテばかりを頼み続けるからだ。(そして、エルリア自身もまかないでそれを食べるのを楽しみにしていた)
エルリアの思惑通り、それから一ヶ月で店の状況は劇的に変わった。
手軽で美味しいピザを求める一般客と、俺の極上料理を求める変人常連客。 店の知名度は爆発的に跳ね上がり、毎日が満員御礼、拍手喝采の超人気店へと変貌を遂げたのだ。
店の入り口には常にバインダーを持ったエルリアが立ち、客の案内から会計までを完璧にこなす。ミアも配膳に専念できるようになり、かつてのような会計のミスは完全に消滅した。
まさに順風満帆。すべてが上手くいっている——そう思っていた。
一ヶ月が経ったある日の閉店後、エルリアが難しい顔をして書類の束を持ってきた。
「ねえ、アレン。この店の賃貸契約書を改めて隅々まで確認したんだけど……これ、明らかにおかしいわ。違法スレスレどころか、完全に法律違反の条項がいくつも紛れ込んでいるの」
「え? そうなのか?」 「ええ。こんなの払う必要ないわ。……ちょっと、この書類を持って領主様のところに直接殴り込み……ゲフン、確認と直談判に行ってくるわ。数日かかるかもしれないから、少しの間、店は二人で回してくれないかしら?」
「ああ、わかった。気をつけてな」 「ご主人様と二人で頑張りますっ!」
俺とミアが元気よく返事をすると、エルリアは「くれぐれも、無茶な経営はしないでね……?」と少し不安そうに振り返りながら、領主の館へと旅立っていった。
こうしてしばらくの間、俺とミアの二人だけで再び店を回すことになった。 ……だが、これが恐ろしい『崩壊』の始まりになるとは、この時の俺たちは知る由もなかったのだ。

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