領主にクビにされ悪徳物件に騙された天才料理人、行き倒れの獣人少女を救ったら世界最高の聖域になっていた件 第十話

下町の路地裏に構えた、かつては倒壊寸前だった小さな店は、今日も驚異的な活気を見せていた。 エルリアによる経営改革は見事に功を奏していた。看板のブイヤベーススープは持ち帰りのみとし、価格を維持(適正な銅貨3枚でお代わり無し、孤児への支援枠は別途確保)。これにより回転率を極限まで高めた。 そして、今の店のメインになりつつあるのが、店内限定、エルリアがぼったくり価格……もといプレミアム価格を設定したアレンの気まぐれスペシャリテだ。

「ふぅ……今日もいい出汁が出たな」 アレンが満足げに巨大な寸胴鍋の蓋を閉めた時、店の扉がガラリと開いた。

「おっ、アレン! ミア! エルリアちゃん! 今日も繁盛じゃのう!」 現れたのはガラム爺だ。彼は「出社じゃ出社!」と訳の分からないことを言いながら、当然のように特等席(といっても小さなカウンターの端だが)を占領し、のんびりとスペシャリテを頼んだ。 ミアが「はい、ガラム爺さん!」と、アレンを男性として意識し始めて少し赤らんだ顔で、手際よく料理を提供していく。

そんな和やかな空気の中に、見覚えのないフードを深くかぶった男が紛れ込んできた。 男は周囲を警戒するように見回し、ボソッとスペシャリテを注文した。 その日のスペシャリテは、かつてアレンが前の店でその名を轟かせ、領主様も愛した『地元のエビのアクアパッツァ』だった。

ミアが料理を提供すると、男はフードの奥から鋭い視線を皿に向け、ぶつぶつと何かを呟きながら、一口、また一口と口に運んだ。 前の店のエビは生臭かったが、アレンの手によるエビは、その旨味だけが完璧に引き出され、スープの一滴まで洗練されていた。 男はあっという間に完食した。

「……完璧だ。これこそがアレンの味だ」

男が静かにフードを取ると、アレンは lad を床に落としそうになった。 「り、領主様……!?」

そこにいたのは、変装していたが、間違いなくこの地を治める領主様だった。 アレンは慌てて頭を下げ、 鍋 を拾うのも忘れて味の感想を聞く。 「頭をお上げ、アレン。……感想か? 完ぺきだ。この世の何処に出しても恥じぬ、至高の一皿だったよ」

領主様は満足げに微笑んだ後、表情を一変させ、鋭い瞳でアレンを見つめた。 「……さて。完ぺきな料理人が、なぜこのような下町の路地裏で屋台を回しているのか、何があったか、全て話してもらおうか」

アレンはミアとエルリアと顔を見合わせ、これまでの一連の経緯——独立をクビと勘違いしたこと、悪徳不動産屋に騙されたこと、店と資格証を奪われたこと、そしてエルリアと再会しここで再生したこと——を、なるべく簡潔に報告した。

「…………な、な、な、何じゃとぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」

領主様の怒りが、ブイヤベースの湯気よりも激しく爆発した。 「わしが授けた資格証を……! わしの信頼を……! あのボッタクリどもめが……! アレン、ミア、エルリア! 待っておれ! わしが直々に片付けてやる!」 領主様は、 エルリアの怒りなど比ではないほどの怒気を撒き散らしながら、店を飛び出していった。


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