領主にクビにされ悪徳物件に騙された天才料理人、行き倒れの獣人少女を救ったら世界最高の聖域になっていた件 第十一話

「…………な、な、な、何じゃとぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」

領主様の怒りが、ブイヤベースの湯気よりも激しく爆発した。 「わしが授けた資格証を……! わしの信頼を……! あのボッタクリどもめが……! アレン、ミア、エルリア! 待っておれ! わしが直々に片付けてやる!」 領主様は、 のエルリアの怒りなど比ではないほどの怒気を撒き散らしながら、店を飛び出していった。秘書に「指示はありませんでしたので」などと言わせる暇も与えず。

アレン、ミア、エルリアの3人は、領主様が残した怒りの残響の中で、鍋 を持ったまま、床を掃くのを止めて、眼鏡の奥の瞳を見開いて、呆然と立ち尽くした。

領主様が、下町の小さな評判店から、フード付きのマントを翻して、怒り狂って飛び出していった、その背後で。

大通りの向かい側の影に、眼鏡で黒髪ポニーテールの高貴なスーツを身に包んだ女性秘書が、冷ややかな瞳で、領主様の背中を見つめていた。

「……あら、思ったより早かったですね」

秘書は、眼鏡のブリッジを押し上げ、冷徹な表情のまま、ぼそっと呟いた。

彼女は、領主がアレンを「好き」であることを、誰よりも理解していた。 それは、彼の料理への熱狂的な愛であり、同時に、彼の無垢で世間知らずな人柄への、一抹の心配と興味だった。 領主がアレンを市井へと送り出したのも、彼を守り、世界に羽ばたかせるためだった。

秘書は、そんな領主の「愛」が、アレンへの執着に変わるのが、少し面白くなかった。 彼がアレンに莫大な資金を投じ、資格証を渡し、世界へ羽ばたかせた英雄として振る舞うのが、少し鼻についたのだ。

だから、彼女は意地悪をした。 アレンが前の店を奪われたこと、不味そうなピザを出していたこと、そしてアレンが下町の外れでブイヤベースの店を開き、評判になっていること(。 これらの情報を、彼女は全て把握していたが、領主には報告しなかった。 彼が自らアレンの状況を知り、焦り、困惑し、そして英雄として振る舞う機会を、あえて隠していたのだ。

秘書は、領主を困らせたかった。彼が「完璧な英雄」としてアレンを守るのではなく、彼が「困った英雄」としてアレンの元へ駆けつけるのを、見たかったのだ。

(彼を、少し困らせてやる……。アレンを、彼を守らせる英雄として、完璧に管理し、見守っていくのだと)

彼女は、エルリアがアレンの店を再生しようとしていた、あの再生プランの書類に、新たな、そして重要な一項目を書き加えた。眼镜の奥の瞳には、 にあったような「燃えるような決意の光」が、かつてないほど強く灯っていた。

しかし、意地悪をしながらも、彼女は領主のやりたいことを完璧にフォローする有能な秘書だった。

領主がアレンの元へ駆けつけ、激怒して店を飛び出した瞬間。 秘書は、すでに不動産屋の悪徳行為の証拠を、完璧に集めていた。 違法な契約条項、アレンから資格証を奪った手下たち、そして、不動産屋が領主名義の資金を横領していたこと。 これらの証拠を、彼女は法務官に完璧に引き渡していたのだ。

「……指示は、ありませんでしたが。準備は、完璧です」

秘書は、冷徹な表情のまま、領主府へと駆け出していった。 領主が怒りをぶつける相手を、彼女が完璧に用意していたのだ。

その数時間後。

街の大通りの路面店、一等地にある「黄金の不動産」の店内に、領主様が法務官の部隊を引き連れて、乗り込んできた。

「り、領主様……!?」

揉み手で近づく、あのボッタクリ契約を結ばせた胡散臭い不動産屋の男が、フリーズした。 領主様の後ろには、眼鏡の奥の瞳を冷ややかに光らせた秘書と、不動産屋の手下たちを拘束した法務官の部隊が続いていた。

「お前たちが……わしの料理人を……!」

領主様の怒りが、不動産屋の男を圧倒した。

秘書が、法務官の部隊に指示を出す。 法務官たちが、不動産屋の書類を次々と押収し、違法な契約条項、横領の証拠、そして奪われた資格証を、領主様の前に並べた。

「違法な契約条項、横領、そして資格証の不正取得……。全ての証拠は揃っています」 秘書が、冷徹な声で告げた。

「えっ? あの料理人は領主様の……?」 不動産屋の男が、絶望に顔を青ざめさせた。 彼は、アレンが莫大な出資金を持っていた(image_0.png)ことから、彼が領主様の関係者である可能性を疑っていたが、まさか、領主様が自ら駆けつけるほどの「愛」を受けていたとは。

「余の料理人を傷つけた罪は、重い」

領主様が、不動産屋の男を、鋭い瞳で射抜いた。

「営業停止、資格剥奪、全財産没収、そして投獄だ。アレンから奪った資格証は……」

領主様は、法務官から返還された資格証を、愛おしそうに見つめた。 そして、秘書に目をやった。秘書が以前言っていた、「彼を英雄として迎え入れるのではなく、彼の選んだ道を尊重する形で資格証を返す」という助言が、彼の頭をよぎった。

(秘書め。……意地悪はやめろと言ったのに。感謝はしているが)

領主様は、資格証を秘書に預け、不动産屋の男を追い返した。

悪徳不動産屋は無期限の営業停止となり、不動産屋の男も、アレンから資格証を奪った手下たちも、全て法務官に引き立てられていった。 そして、 で生臭いエビピザを出していた、あの広々とした大通りの前の店は、空っぽになった。

奪われた天才料理人と獣人少女。 そして、激怒しながらもフリーズする不器用なエルフ。 物語は、秘書の有能な意地悪と、領主様の「愛」を巻き込みながら、さらなる展開へと進んでいく。


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