超能力は無能力 第三話

都市の中央にそびえ立つ、五十階を超える摩天楼——国連軍部本部ビル。 その足元に広がる薄暗く冷たい地下道に、複数の人影が息を潜めて立ち並んでいた。

彼らは、社会から弾き出された「超能力者」の一団だった。 超能力を悪用する一部の犯罪者に対抗できないという理由から、警察権力は軍部へと移行。結果として、国連軍部による苛烈な超能力者狩りと迫害が始まった。 終わりの見えない逃亡生活と理不尽な暴力に、彼らの忍耐はとうの昔に限界を突破していた。そして今夜、迫害の元凶を絶つべく、超能力者団体による最後の反攻作戦が実行されようとしていた。

重苦しい空気の中、一人の赤い髪の青年——爆が、苦渋に満ちた声で呟いた。 「……本当に、この戦いは避けることができないのだろうか」

しかし、その言葉に耳を貸す者は誰もいなかった。仲間たちの瞳には、もはや憎悪と決意の炎しか宿っていない。爆自身も、一部の良識派の意見がこの状況下で通らないことは痛いほど理解していた。

地下道に隠された秘密の搬入口の前に、突入部隊が集結する。 その先頭に立つのは、革のライダースーツをベースにした反乱軍の制服を纏い、背中に誇り高く反乱軍の徽章を背負ったリーダー格の男、グラッドだった。

「聞け、同胞たちよ! 今こそ革命の時が来た!」 グラッドの熱を帯びた声が地下道に響き渡る。 「長きにわたる迫害の歴史は、今夜ここで終わる。我々こそが、次代を担う選ばれた民なのだ!」

その演説を合図に、超能力者たちは本部ビルの下層階へと雪崩れ込んだ。

「やれやれ。超能力者達というのは、本当にどうしようもありませんねぇ」

遥か上空、監視室のモニター群を見つめながら、金髪の男——シーザーは愉快そうに笑みをこぼした。 画面の中では、必死の形相で突き進む超能力者たちの姿が映し出されている。彼らの悲壮な決意すらも、シーザーにとっては退屈しのぎの喜劇でしかなかった。

一団の目標は、拠点の制圧と、超能力者制圧部隊の長である『アイスマン』の討伐。 彼らは施設の防衛線を強行突破し、上層階へ続くエレベーターが設置された中継ホールへと辿り着いた。

だが、ホールに足を踏み入れようとした瞬間、凄まじい銃撃の嵐が彼らを襲った。 壁の向こうに身を隠し、足止めを食らう一団。しかし、リーダーであるグラッドが不敵な笑みを浮かべて前に出た。

「銃弾など、俺の『磁力』の前では無力だ!」

グラッドは自身の能力を全開にし、単身ホールへと飛び込んだ。 ——しかし、彼の能力は発動しなかった。 磁力の壁で弾かれるはずの弾丸が、いとも容易く彼の肉体を切り裂く。

「ぐぁッ!?」 血を吹き出し倒れ込むグラッド。慌てて仲間が飛び出し、彼を抱え上げて元の通路へと引きずり戻した。

「ハハハハッ! 馬鹿め!」 ホールの奥から、防衛部隊の指揮官の嘲笑が響く。 「お前の『磁力』の能力など、とうに割れているんだよ! 我らの武装はすべて、強化プラスチックと特殊樹脂のみで形成されている。このフロアが、貴様ら化け物どもの墓場だ!」

グラッドが辛うじて即死を免れたのは、弾丸が鋼鉄製ではなかったためだ。 敵は、超能力者たちの慢心を突く周到な作戦を練っていた。

「……種が分かれば問題ない」

仲間の一人が立ち上がった。全身を鋼鉄のように硬化させる能力を持つ戦士だ。そして、彼をサポートすべく重力を操る戦士が隣に並び立つ。 鋼鉄化した体を盾にして弾丸を防ぎ、その隙に重力波で敵全員を床に押し潰す作戦だ。

二人は息を合わせ、ホールへと躍り出た。 だが、彼らが足を踏み入れた瞬間——凄まじい音と共に磁場が反転した。

「なッ……!?」 「うおぉぉッ!?」

強烈な磁力場が鋼鉄化した戦士を引き寄せ、それに巻き込まれた重力使いと共に、二人は天井へと激しく叩きつけられた。予想外のトラップに対応できず、身動きが取れなくなる二人。 そこへ、容赦のない強化プラスチック弾の雨が降り注いだ。 グラッドのように逃れることもできず、二人は為す術もなく戦闘不能状態へと追い込まれた。

「面白いように罠にハマってくれるな!」 敵の指揮官の笑い声が再び響く。 「なぜわざわざこちらの手の内を明かしたと思っている? 貴様らの能力は、すべてお見通しだということだ!」

自分たちの能力が完全に解析され、対策されている。 その事実に、生き残った超能力者たちの足がすくんだ。誰もが二の足を踏み、絶望の空気が一団を包み込む。

監視室では、シーザーが腹を抱えて高笑いしていた。 「あははははッ! 傑作ですね! さーて皆さん、次はどうするんでしょう。もっと、もっと私を楽しませてくださいねぇ」

沈黙する通路に、敵の容赦ない追い打ちの声が響く。

「怖くて動けないか、鼠ども! すでに下層階から追撃部隊の準備も終わったぞ。そこで震えて待つか、無様に突っ込んでくるか……楽しみに待っているぞ!」

進むことも退くこともできない絶望的状況。 その時、血まみれのグラッドがふらつきながら立ち上がった。 彼は仲間の制止を振り切り、何も言わずに一人、銃弾の飛び交うホールへと駆け出した。

「うおおおおおォォォォッ!!」

グラッドは命の限界を超え、超能力を暴走させた。 対象は敵の銃器ではない。フロアの床、外壁の奥深くに埋め込まれた鉄骨、そしてわずかな鉄製品。 ビルそのものを構成する金属が彼の磁力に呼応し、メリメリと音を立てて壁や床から引き剥がされる。それらは空中で圧縮され、無数の鋭い「剣」へと姿を変えた。

「行けェェェェッ!!」

縦横無尽に飛び回る無数の鉄剣が、ホールに潜む敵兵たちを次々と貫いていく。 グラッド自身も無数のプラスチック弾をその身に受け、全身を血に染めながら、最後の力を振り絞って防衛部隊を壊滅させた。

やがて、銃声が止んだ。 静寂に包まれたホールに、仲間たちが恐る恐る足を踏み入れる。 そこには、無数の敵兵の死体の中心で、満足げな笑みを浮かべたまま事切れているグラッドの姿があった。

「グラッド……」 悲痛な声が漏れる。だが、感傷に浸っている暇はなかった。下層階からの追撃はすぐそこまで迫っている。

「ここは俺たちが引き受ける!」 数名のメンバーが、血の涙を堪えながらしんがり役を申し出た。彼らは追撃部隊を食い止めるため、通路へと引き返していく。

残されたのは、爆とユキを含む8人のみ。 目の前には、上層階へと続く4基のエレベーターが口を開けている。 この先にも、どんな悪辣な罠が待ち受けているかわからない。リスクを分散させるため、彼らは二人一組になり、それぞれの箱へと乗り込んでいった。

扉が閉まる。 上昇を始めるエレベーターの中で、爆は隣に立つユキの手を強く握りしめた。 多くの犠牲の上に繋がれた命。 最後の決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です