第1章:ショーグンからの勅命

ブロンクスの地下道場。今日の空気はいつになく重かった。グランドマスター・ヒロが、神棚の前で深刻な面持ちで座している。

「ジェニファーよ。国家存亡の危機だ」 「国家……アメリカですか? それとも日本?」

ヒロはゆっくりと首を横に振った。 「両方だ。間もなく、合衆国大統領がニューヨークを訪問する。奴は親日家でな。毎朝『カリフォルニア・ロール』を食べるという、日米の架け橋となる重要人物だ」 「カリフォルニア・ロール……! アボカドとマヨネーズという邪道を許容する、寛大なる心の持ち主ですね」

ヒロは頷き、一枚の写真を取り出した。写っていたのは、港湾地区を牛耳るマフィアのドン、通称**「ウォータードラゴン」**。常に濡れたようなスーツを着て、不敵な笑みを浮かべる男だ。

「この男が、大統領暗殺を企てている。ウォーターフロントの利権を脅かされるのを恐れたのだろう。奴の背後には、巨大な闇組織『ブラック・スシ・シンジケート』の影も見え隠れする」 「許せません。大統領の命と、カリフォルニア・ロールの未来を守らねば!」

ヒロは今日の金言を授けた。 『ゴ・エツ・ドウ・シュウ

「その意味はこうだ。『呉の国の者と越の国の者は仲が悪いが、同じ船が嵐に遭えば、互いに助け合う。つまり、非常時には嫌いな奴とでも手を組んで、嵐(トラブル)を乗り切れ』」 「嫌いな奴と手を組む……それが忍びの任務なのですね」

第2章:愛国者の怒り

一方、マンハッタンのペントハウス。ブラッドはテレビのニュースを見て、プロテインシェイカーを握り潰した。

『――大統領のNY訪問を前に、港湾地区で不穏な動きが……』

「大統領を狙うだと? 自由の国アメリカの象徴を!」 ブラッドの愛国心リミッターが振り切れた。彼の脳内では、大統領は常に鷲を肩に乗せ、片手でハンバーガーを持ち、もう片方の手で憲法を掲げている聖なる存在だ。

「許さん。アメリカの敵は、この俺、ジャスティススターが排除する!」 彼は星条旗スーツを身にまとい、白塗りのメイクを施した。狂気のヒーローが、再び夜の街へ解き放たれる。

第3章:埠頭の遭遇

深夜の第88番埠頭。潮の香りと腐敗臭が混ざり合う場所。 ウォータードラゴンは、部下たちに囲まれ、密輸された武器の山を前に悦に入っていた。

「フフフ。これで大統領のパレードを水浸しにしてやる。ニューヨークの港は俺の庭だ」

その時、倉庫の天井から桜色の煙幕弾が落ちた。 「アイエエエ! 潮風が目に染みるわ、悪党ども!」 ミラクルニンジャガールが、コンテナの上に音もなく着地する。

「誰だ貴様は! やってしまえ!」 ウォータードラゴンの部下たちが銃を構えた瞬間。

ドガァァァン! 倉庫の壁が突き破られ、星条旗柄の暴走トラックが突っ込んできた。

「ヒャッハー! 不法入国者ども、検疫の時間だぜ!」 トラックの屋根から、松明を振り回すジャスティススターが飛び降りた。

三つ巴の状況。ジェニファーとブラッドは互いを睨みつけた。 「貴様! また邪魔をしに来たか、ピンクの猿!」 「黙んなさい、星条旗の狂人! 今夜の獲物は私のものよ!」

しかし、二人の視線は同時にウォータードラゴンに向いた。 「……待て。貴様の狙いも、あの大統領暗殺未遂犯か?」とジャスティススター。 「ええ。奴は日米の友好を脅かす国賊よ」とニンジャガール。

二人の間に、奇妙な連帯感が生まれた。ヒロの金言が脳裏をよぎる。『ゴ・エツ・ドウ・シュウ』。

「……いいだろう。一時休戦だ。アメリカの正義のために!」 「……承知したわ。武士の情けで、今夜だけは共闘してあげる!」

第4章:噛み合わない歯車

「馬鹿な! あのイカれた二人が手を組んだだと!?」 焦るウォータードラゴン。

最強(最狂)のタッグが誕生したかに思えた。しかし、戦闘が始まるとすぐに問題が発生した。

ニンジャガールは、コンテナの影に潜み、静かに敵を仕留めようとした。 「忍法・影縫い……」

しかし、その横でジャスティススターが、持参した巨大なラジカセのスイッチを入れた。大音量で流れる国歌『星条旗よ永遠なれ(ロックバージョン)』。

「うるさいわね! 隠密行動が台無しじゃない!」 「何を言う! 戦場にはBGMが必要だ! これが士気を高めるアメリカン・スタイルだ!」

彼らの「文化」は、根本的に相容れなかった。

ウォータードラゴンが、高圧放水砲を構える。 「まとめて海の藻屑となれ!」

「危ない! ここは『柔よく剛を制す』。柳のように攻撃を受け流すのよ!」 ニンジャガールが防御の姿勢を取る。

しかし、ジャスティススターは真正面から突っ込んだ。 「馬鹿野郎! アメリカン・フットボールに『受け流す』なんて言葉はない! 前進あるのみだ!」

彼は放水をもろに浴びながらも、強靭な肉体で前進し、放水砲を素手で破壊した。 「見たか! これがフロンティア・スピリットだ!」 「野蛮すぎるわ! 少しは『ワビ・サビ』の心を持ちなさい!」

第5章:決裂の時

かろうじて雑魚を蹴散らし、二人はウォータードラゴンを追い詰めた。

「くそっ、覚えてろよ!」 ウォータードラゴンが海へ飛び込もうとする。

「逃がすか!」 ニンジャガールが素早く印を結んだ。 「水遁の術! 逆巻く渦潮(トイレット・フラッシュ)!」 彼女がチャクラを練ると、海面が渦を巻き、まるで巨大なトイレのようにウォータードラゴンを吸い寄せた。

「ぎゃあああ! 水が、水が汚い!」 汚染されたニューヨーク港の海水に揉まれ、気絶するウォータードラゴン。

敵は倒れた。しかし、本当の戦いはここからだった。

ニンジャガールは、気絶したウォータードラゴンを引き上げ、彼に短刀を持たせた。 「さあ、武士らしく腹を切りなさい。それが最後の名誉よ」 彼女なりの慈悲、そしてけじめのつけ方だった。

それを見たジャスティススターが激昂した。 「何をやっている、この野蛮人が! ここは法治国家アメリカだ! 裁判にかけて、陪審員の前で裁くんだ!」

「なんですって!? 恥を晒して生きろと言うの? それこそ武士道への冒涜よ!」 「ハラキリだと!? そんなカビの生えた風習、この国では認めん! 人権侵害だ!」

互いの「正義」が衝突する。共闘の熱は冷め、再び敵意の炎が燃え上がった。

「やはり貴様とは分かり合えん! その歪んだ日本文化、私が矯正してやる!」 ジャスティススターが自由の松明を構える。

「望むところよ! 貴様のアメリカン・エゴイズム、私の刀で断ち切ってくれるわ!」 ニンジャガールがショーグンソードを抜く。

月明かりの下、倒れた共通の敵を放置したまま、二人のヒーロー(?)は再び激突した。 「「覚悟しろーッ!」」

埠頭に爆発音が響き渡る。 日米の同盟は、一夜にして崩れ去った。文化の壁は、鋼鉄よりも厚く、そして高かったのだ。

1980年、ニューヨーク。多様性の街とは名ばかりの、分かり合えない魂たちが、今夜も火花を散らす。