第1章:地中海からの誘惑者

ブロンクスのハイスクールに激震が走った。転校生が来たのだ。 彼女の名はソフィア・ロッソ。イタリア、ローマ出身。

教室のドアが開いた瞬間、男子生徒たちの視線が釘付けになった。80年代のファッション誌から飛び出したような、とんでもなくグラマラスなプロポーション。タイトなデザイナーズ・ジーンズが、彼女の曲線美を強調して悲鳴を上げている。

「チャオ! ソフィアよ。趣味はパスタ作りと、情熱的なアモーレ(愛)を探すこと」 ウインク一つで、教室の温度が確実に5度上がった。

「なんてこった……。大地の精霊が、彼女のフェロモンにひれ伏している……」 隣の席で、常に冷静沈着な戦士イーグルが、鼻血を出して白目を剥いた。完全に魂を持っていかれている。

ソフィアの視線は、すぐにクラスの頂点(カーストトップ)、ブラッドに向けられた。 「あなた、いい男ね。ローマの彫刻みたい。放課後、私の手作りラザニアを食べに来ない? マンマ直伝の濃厚なソースよ」

ブラッドは爽やかに笑ってかわした。 「ありがとう、ソフィア。でも僕はハンバーガーとコーラがあれば十分さ。それに、今夜はチアリーダーたちとの『作戦会議』で忙しいんだ」 さすがは学園のスター、美女の直球アピールにも動じない。

しかし、ジェニファーの心は穏やかではなかった。 (なによあの女……! 胸囲が私の倍はあるじゃない! しかもラザニアですって!? こっちは生のタコしか勝負球がないのに!) 強力すぎるライバルの出現に、ジェニファーの危機感はMAXに達した。

帰宅後、ジェニファーは道場で祖父に泣きついた。 「グランドマスター! 緊急事態です! ローマ帝国がブラッド様を侵略しに来ました!」

ヒロはサングラスの位置を直し、厳かに言った。 「慌てるな。今日の金言はこれだ。『カベ・ニ・ミミ・アリ・ショウジ・ニ・メ・アリ』」

「その意味はこうだ。『日本の家屋は壁が薄い。ゆえに、恋のライバルは常に壁の向こう側からお前の隙を盗み見ていると思え。二十四時間、全方位を警戒せよ』」 「なるほど……! 恋愛とは、終わりのない諜報戦なのですね!」

第2章:アナーキー・イン・ザ・N.Y.

その夜、マンハッタンのタイムズスクエアが狂気に包まれた。 「ヒャッハー! 体制なんざクソくらえ! 自由こそが全てだ! ルールなんて破るためにあるんだよぉ!」

破壊の中心にいたのは、スパイクヘアに、体のラインが丸分かりの過激なボンテージ・ファッション(ほぼ下着)に身を包んだ女。自らを**「パンクボディ」**と名乗る、自由を求めるアナーキストだ。彼女は改造したエレキギターをかき鳴らし、破壊的な音波でショーウィンドウを粉砕していた。

そこへ、星条旗の男が現れた。ジャスティススターだ。 「待て! 貴様のやっていることは破壊活動だ! だが……『自由』を求めるその魂、嫌いじゃないぜ!」

ジャスティススターの歪んだ愛国心が、パンクボディの歪んだ自由思想と共鳴した。 「ほう、アンタ、話せる口だね。どうだい、一緒にこの街を『解放』しないか?」 「いいだろう! 今夜のアメリカは、ロックンロールだ!」

最悪のタッグが結成された。

第3章:自由の名の暴力

桜色の煙と共に、ミラクルニンジャガールが到着する。 「そこまでよ! 自由を履き違えた無法者たち! 私が和の心で縛り上げてあげる!」

「出たな、ピンクの体制側!」パンクボディがギターを構える。 「喰らいな! 『セックス・ピストルズ・ソニック(騒音地獄)』!!

ギャギャギャギャーン! 凄まじいノイズがジェニファーを襲う。 「くっ、うるさい! なんて下品な音なの!」

さらにジャスティススターが火炎放射を放つ。音波と炎の挟み撃ち。ジェニファーは防戦一方となる。

その時、パンクボディの音波攻撃が、味方であるはずのジャスティススターにも直撃した。 「ぐああっ! 何をする、このアマ!」 「アハハ! ごめんよ相棒、アナーキーに味方なんていないのさ!」

ジャスティススターが吹き飛ばされ、一時的に戦線離脱する。 「今だ! とどめだ! この『アナーキー・ピン・ミサイル』で、蜂の巣になりな!」 パンクボディが服のあちこちに付けた巨大な安全ピンを引き抜いた。無数の鋭利な金属が、動けないジェニファーに向かって放たれた。回避不能!

(しまっ……!)

第4章:本能のタッチダウン

その瞬間。 路地裏から、一人の男が弾丸のように飛び出した。

たまたま近くを通りかかった(という設定の)、アメフト部のスタジャンを着たブラッドだ。彼は、死地に立つピンクの少女を見た瞬間、思考するより先に体が動いていた。

「危ないッ!」

ブラッドは、全米No.1クォーターバックの脚力でアスファルトを蹴り、ジェニファーに向かって決死のダイビング・タックルを敢行した。 彼はジェニファーを抱きかかえるようにして地面を転がり、近くにあった工事用の鉄板の影に滑り込んだ。

カカカカカッ! 安全ピンの嵐が、彼らがいた場所のアスファルトを蜂の巣にする。

「……っつ!」 ブラッドの腕を、数本のピンがかすめていた。血が滲む。

ジェニファーは目を見開いた。目の前にいるのは、憧れのブラッド様。 「ブ、ブラッド様!? なぜ、貴方がここに!?」

ブラッド自身も、自分の行動が信じられない様子だった。荒い息を吐きながら、彼は呟いた。 「わ、分からない……。君が危ないと思った瞬間、体が勝手に動いていたんだ。まるで、絶対に守らなきゃいけない大切なものを、見つけたみたいに……」

(私が……大切なもの……?) ジェニファーの胸が、激しく高鳴った。

第5章:静寂の茶室

「チッ、邪魔が入ったか!」パンクボディが舌打ちする。

「ブラッド様、下がっていてください。この礼は、必ず!」 愛する人に守られた。その事実が、ジェニファーのチャクラを極限まで高めた。

彼女は懐から茶筅(ちゃせん)と抹茶碗を取り出し、その場で静かに茶を点て始めた。戦場の中心で、異様な静けさが生まれる。

「あ? 何やってんだ、テメェ!」 パンクボディがギターをかき鳴らすが、音が出ない。

「新忍法! サイレント・ティーセレモニー(静寂の茶室空間)!!」

ジェニファーが作り出したのは、あらゆる騒音と暴力を無効化する「ワビ・サビ」の結界だった。 「本当の自由とは、静けさの中にあるのよ!」

彼女は点てた熱々の抹茶を、パンクボディの顔面にぶちまけた。 「熱っ! 苦っ! 何これ、泥水!?」 「それは最高級のウジ抹茶よ! カテキンのパワーで心を清めなさい!」

視界を奪われたパンクボディに、ジェニファーはショーグンソードの峰打ちを叩き込んだ。 「成仏なさい!」

ドカォォォン! パンクボディは、壊れたギターと共に夜空の星となった。

第6章:本物の恋

戦いが終わり、静寂が戻った。 遅れて現場に戻ってきたジャスティススターは、倒されたパンクボディを見て舌打ちし、そのまま姿を消した。

ジェニファーは、腕に怪我を負ったブラッドの元へ歩み寄った。

「あの、お怪我は……」 ニンジャガールとしての彼女は、彼に正体を明かせない。他人行儀に話しかけるしかない。

ブラッドは痛む腕を押さえながら、爽やかに笑った。 「平気さ。かすり傷だよ。それより、君が無事でよかった。名もなきヒーローさん」

その笑顔を見た瞬間、ジェニファーの中で何かが決定的に変わった。 ソフィアの出現に焦っていた自分。憧れだけで見ていた自分。そんなものは吹き飛んだ。

彼こそが、命を賭して自分を守ってくれた、真の「サムライ」なのだ。

(ブラッド様……。私、決めました。貴方へのこの想い、もう誰にも、何にも揺るがせはしません)

彼女はマスクの下で、強く唇を噛み締めた。 これはもう、単なるハイスクールの恋ではない。忍びの命をかけた、本物の愛の始まりだった。

1980年、ニューヨーク。摩天楼の影で、少女の決意が鋼のように固まった。