神鳴くんはクールを装う 最終話

光に包まれ、元の世界に戻った俺は、一目散に葵の家へと向かった。

部屋に通されると、そこには、死の淵にいたことが嘘のように、元気いっぱいの笑顔を向ける葵の姿があった。

「響! 来てくれたんだ!」

その輝くような笑顔を見て、俺は確信した。俺の願いは叶ったのだ。そして、今こそ、俺のもう一つの決意を実行する時だ。

俺は、まっすぐに葵を見つめた。

「葵…。お前が好きだ」

一瞬、葵の時が止まった。理解できないというような間(ま)があった後、葵の表情が曇り、あからさまに不快な顔へと変わった。

「え…? ごめん、ちょっと何言ってるのかわかんない」

葵は、冷ややかな視線で俺を見た。

「響ちゃんのことはさ、友達として、幼馴染としては好きだけど…そういう対象じゃないんだよね。そもそも、私が今まで響ちゃんを構ってたのって、学校で友達がいない陰キャの響ちゃんを構ってあげてって、おばさんからお願いされてたからだし…」

「え…?」

「なんか勘違いさせちゃったかな? うわぁ…やっぱ陰キャの妄想って、ちょっとキモいね」

俺は、一瞬何を言われているのか分からず、きょとんとした。しかし、言葉の意味が脳に浸透するにつれて、猛烈な苦痛と、顔から火が出るほどの羞恥心が俺を襲った。

命を懸けて戦った。世界を救った。すべては、この子のために。 だが、現実は――「母親に頼まれて仕方なく構っていた陰キャ」という評価だった。

俺は、震える唇で、必死に強がった。

「…ば、バーカ! 冗談だよ! お前みたいなガサツな女、俺の方から願い下げだっつーの!」

精一杯のクールなふり。しかし、葵はそんな俺を、すべて見透かしたような、冷たい目で見つめていた。

その日の夜のことは、全く覚えていない。ただ、枕に顔を埋め、後悔と恥辱にまみれた一晩を過ごしたことだけは確かだ。

そして翌朝。 通学路で、葵がいつものように話しかけてきた。

「おはよー、響!」

ああ、やっぱり昨日のあれは悪い夢だったのかな。俺が一安心したのも束の間、葵はすれ違いざま、周囲には聞こえない声で、侮蔑の表情を浮かべて呟いた。

「…昨日みたいな冗談、もうやめてね。鳥肌立つから」

その言葉は、鋭利な刃物のように俺の心をえぐった。夢じゃなかった。俺の初恋は、完膚なきまでに砕け散ったのだ。

ショックですべて投げ出したくなったが、俺は気を取り直した。

(…ふん。まあいい。俺には、死ぬほど俺を愛してくれている茜がいる。あいつなら、俺のすべてを受け入れてくれるはずだ)

俺は開き直り、学校の校門付近で茜の姿を探した。いた。いつものように友達と話している。

「よう、茜」

俺は、少し恰好をつけて声をかけた。茜は振り返り、俺の顔を見て――きょとんとした。

「あの…どちら様ですか? 多分、先輩とはお話ししたことがないと思うんですが…」

「…え?」

俺は凍り付いた。そして、すぐに理解した。 妖精バトルに参加した人間は、優勝者以外、戦いの記憶が消去されるのだ。

茜にとって、俺は「命を懸けたパートナー」でも「愛するひびきちゃん」でもない。ただの、話したこともない先輩に戻っていた。

🕶 クールな俺の、新たなる戦い
俺はすべてを失った。 葵への想いも、茜からの愛も、妖精との絆も。

しばらくの間、俺は後悔の海に沈んだ。夜になれば、葵に言われた「キモい」という言葉と、茜の他人行儀な視線がフラッシュバックし、布団の中で身悶えする日々を過ごした。

しかし、数日後の朝。鏡の前で、俺は顔を上げた。

「…ふん。やせ我慢こそが、男の美学だ」

今回の戦いは、俺を成長させただろう。甘い幻想は捨てた。俺は、より強固で、より孤独で、よりクールな俺へと生まれ変わったのだ。

妖精バトルは終わった。だが、この残酷な現実世界(リアル)での、俺の戦いはこれからだ。

俺は、誰にも媚びない孤高の表情を作り、学校へと向かった。

場面は変わり、ここは異次元にある妖精国。

きらびやかな装飾が施された『妖精王の間』で、ピカリスが王座に向かって恭しく頭を下げていた。

「ピカリス、優勝おめでとう。今回の戦い、とても楽しませてもらったわ。次の大会もよろしくね」

王座から、鈴を転がすような、しかし絶対的な威厳を含んだ声が響く。

「畏まりました、女王様」

ピカリスがゆっくりと顔を上げる。 そこには、彼にとって見慣れた、絶対君主の顔があった。

妖精王の玉座に座り、頬杖をついて微笑んでいるのは――

紛れもない、星宮 葵の顔をした女性だった。

彼女は、モニターに映し出された、人間界で一人クールに振る舞う響の姿を眺め、妖艶に唇を歪めた。

「響は面白かったわ。あの必死な顔、勘違いした滑稽な告白…ふふっ」

女王は、新しい玩具を見つけた子供のように、目を輝かせた。

「まだまだ、響ちゃんで楽しめそうね…」

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