
第1章:嵐の前のロマンス
1980年、春。ニューヨークの街は、二つの熱気に包まれていた。 一つは、若者たちの心をときめかせる「プロム(卒業ダンスパーティー)」。 もう一つは、国を揺るがす「次期大統領選挙」の喧騒だ。
ブロンクスのハイスクール。廊下の片隅で、ブラッドがジェニファーを呼び止めた。
「ジェニファー、あのさ……プロムのパートナー、まだ決まってないなら、僕とどうかな?」
時が止まった。ジェニファーの心臓が、早鐘のように打ち鳴らされる。 (ブ、ブラッド様が私を!? ソフィアでもチアリーダーでもなく!?)
「は、はい! 喜んで! 僭越ながら、このジェニファー・タナカ、末代までの誉れとさせていただきます!」 思わず最敬礼してしまったが、ブラッドは嬉しそうに笑った。
夢のような瞬間。しかし、現実は甘くなかった。 テレビのニュースが、不穏な空気を伝えている。
『――連日の貿易摩擦により、国内で反日感情が高まっています。デトロイトでは、日本車をハンマーで叩き壊すパフォーマンスが行われ……』
画面の中で、熱狂した群衆が「JAP GO HOME!」と叫んでいる。ジェニファーの胸が締め付けられた。 (私はアメリカで生まれ育った。でも、この国の人々にとって私は、まだ「敵」なのね……)
第2章:ヴィラン連合、結成
マンハッタンの地下深く。廃棄された地下鉄構内に、悪の精鋭たちが集結していた。
「諸君、時は来た。選挙で浮足立つこの国に、真の混沌をもたらすのだ」 音頭を取るのは、半身サイボーグの科学者、Dr.マシンソリューション。
その周囲には、かつてニンジャガールに辛酸を舐めさせられた者たちが並ぶ。 復讐に燃える音波テロリスト、パンクボディ。 港湾利権を取り戻したいマフィア、ウォータードラゴン。
そして、もう一人。星条旗のスーツを着た狂人、ジャスティススターが壁にもたれていた。 「フン、選挙などどうでもいい。俺の目的は、あのピンクの猿を血祭りにあげることだけだ」 彼の内なるブラッドの人格は、激しい頭痛によって抑え込まれていた。
「利害は一致したな。作戦名は『オペレーション・プロム・マサカー(大虐殺)』。決行は明日の夜だ」
第3章:血塗られたダンスフロア
プロムの夜。体育館は華やかな装飾と、着飾った生徒たちで溢れていた。 ジェニファーは、祖母の形見の着物をリメイクした、和風ドレスで現れた。そのエキゾチックな美しさに、会場が息をのむ。
タキシード姿のブラッドが、彼女の手を取った。 「君は、今夜一番輝いているよ、ジェニファー」
二人がダンスフロアの中央で踊り始めたその時。
ドォォォン!! 爆発音と共に、体育館の壁が吹き飛んだ。
「ヒャッハー! パーティーは終わりだ! これからは地獄の宴の時間だぜ!」 パンクボディのギターノイズが響き渡る。ウォータードラゴンの部下たちが、マシンガンを乱射しながら乱入してきた。
「アイエエエ! テロリスト!?」 パニックに陥る生徒たち。
Dr.マシンソリューションがマイクを握り、演説を始めた。 「聞け、愚民ども! 諸君の愛するこの国は、非論理的な異分子によって汚染されている! その象徴こそが、日本から来たニンジャガールだ!」
「そうだ! 日本車と一緒に、日本人も叩き出せ!」 暴徒と化したヴィランたちが、ジャパンバッシングの憎悪を煽る。これは単なるテロではない。この国に潜む差別の闇が、形を持って襲い掛かってきたのだ。
第4章:アイデンティティの決断
「みんな、逃げろ!」 ブラッドが生徒たちを誘導しようとするが、激しい頭痛に襲われ、膝をつく。 「ぐああっ! くそっ、こんな時に……頭が割れそうだ!」 (出てくるな! 俺の中の狂気!)
ジェニファーは震えていた。怖い。愛する人の前で、化け物扱いされるのが。 だが、友人のイーグルが、ソフィアが、傷つけられそうになっている。
その時、脳裏に祖父ヒロの言葉が響いた。 『ジェニファーよ。忍とは耐え忍ぶ者。だが、守るべきもののために、その殻を破る時が必ず来る。それを「覚悟」と呼ぶ』
ジェニファーは、ドレスの裾を破り捨てた。 「ブラッド様……ごめんなさい。これが、私の本当の姿です」
彼女は懐から桜色の煙玉を取り出し、地面に叩きつけた。
ボンッ! 煙が晴れた時、そこには蛍光ピンクの装束に身を包んだ、ミラクルニンジャガールが立っていた。
「え……? ジェニファー……君が、ニンジャガール?」 ブラッドが呆然とする。
ジェニファーは毅然と顔を上げた。 「私はジェニファー・タナカ。アメリカ生まれの日系3世。そして、この街を守るニンジャよ! 誰が何と言おうと、ここが私のホーム(故郷)だわ!」
第5章:ラスト・ダンス・イン・N.Y.
「正体を現したな、異分子め! まとめて排除してくれる!」 ヴィラン連合が一斉に襲い掛かる。
パンクボディの音波、ウォータードラゴンの水流、マシンソリューションのレーザー攻撃。 多勢に無勢。ジェニファーは防戦一方となり、次第に追い詰められていく。
「ハハハ! どうした、自慢の日本刀は折れたか!」 パンクボディがとどめの一撃を加えようとした瞬間。
ドスッ! 星条旗柄の盾が飛来し、パンクボディを吹き飛ばした。
「なっ……ジャスティススター!? 貴様、裏切る気か!」
そこに立っていたのは、苦悶の表情を浮かべながらも、仁王立ちする星条旗の男だった。 「うるさい! 俺の……俺の大切なパートナーを、傷つける奴は許さん!」
ブラッドの強靭な意志が、狂気をねじ伏せたのだ。 「ニンジャガール! いや、ジェニファー! 僕が道を切り開く! 君は奴らのボスを!」
「はい! ブラッド様!」 奇跡の共闘。ジャスティススターが盾となり、ヴィランたちの攻撃を引き受ける。
その隙に、ジェニファーは中空高く舞い上がった。満月が彼女の背後で輝く。 全てのチャクラを解放する。これが最後の一撃だ。
「最終奥義! サクラ・ストーム・オブ・リバティ(自由の桜吹雪)!!」
彼女の体から、無数の桜の花びら(に見える特殊なチャフ)が放たれた。それは竜巻となり、ヴィランたちを飲み込んでいく。
「バカな! 私の完璧な計算が、花びらごときに!」 「アナーキーすぎるだろぉぉぉ!」
花びらの嵐は、憎悪と暴力を浄化するように、ヴィランたちを夜空の彼方へと吹き飛ばした。
エピローグ:夜明けの口づけ
戦いが終わり、静寂が戻った。体育館は半壊し、飾り付けもボロボロだ。 しかし、生徒たちは誰も逃げていなかった。彼らは、自分たちを守ってくれたピンクの英雄を、静かに見つめていた。
ジェニファーはマスクを外し、ブラッドに向き合った。 「騙していて、ごめんなさい」
ブラッドは、傷だらけの顔で微笑んだ。 「謝る必要なんてないさ。君は、僕が知る限り、最も勇敢で、最もクールなアメリカン・ガールだよ」
彼はジェニファーを引き寄せた。 壊れたミラーボールが、朝日に照らされてキラキラと輝く。 二人は、瓦礫の中で、長く、深いキスを交わした。
翌日のニュースは、相変わらずジャパンバッシングの話題で持ちきりだった。偏見は簡単にはなくならない。 だが、ジェニファーはもう恐れなかった。
彼女の隣には、強く手を握ってくれるパートナーがいる。 そして背中には、彼女を信じてくれる仲間たちがいる。
1980年、ニューヨーク。 ニンジャガールの戦いは、まだ終わらない。しかし、彼女はもう一人ではない。