新生国会による政治改革は、表面上、順調に進んでいるように見えた。 恐怖によって選別された議員たちは、勤勉に働き、無駄な歳出は削減され、法案審議のスピードは劇的に向上した。国民は、かつてない効率的な政治を目の当たりにし、一種の熱狂の中でそれを支持した。

だが、ヤマトタケルの眼は欺けない。 政治家はあくまで「表の顔」に過ぎない。この国を実質的に動かし、腐敗の根源となっている「裏のフィクサー」たちは、依然として暗部で蠢いていた。彼らは嵐が過ぎ去るのを待ち、再び利権の網を広げようと画策していたのだ。

そして、新生国会発足から一か月後。 その夜、日本中が凍り付くことになる。


金曜日の夜。高視聴率を誇る民放の生放送カウントダウン番組。 華やかなスタジオセットの中、人気司会者がいつものハイテンションでカメラに語り掛けていた。

「さあ、今週も始まりました! いつもご覧いただきありがとうございます。今夜の気になるランキングは……『抱かれたい若手イケメンタレントTOP10』! それでは早速、ランキング、スターットォ!」

司会者が派手なポーズを決めた、その瞬間。 スタジオの巨大モニターがノイズを発し、画面が切り替わった。

映し出されたのは、白と赤の覆面の男――ヤマトタケル。

「なっ、え!? 何が起きてるの!?」 司会者が慌てふためき、スタッフが怒号を上げる。生放送の現場はパニックに陥った。 だが、モニターの中のヤマトタケルは、静かに告げた。

「番組を楽しみにしていた諸君には申し訳ないが、今週のランキングは変更させていただく」

彼の声は、電波に乗って全国の家庭に届けられた。

「今夜発表するのは、『日本をダメにする異物ランキングTOP100』だ。……ランキング、スタート」

VTRが始まった。本来ならイケメンタレントの笑顔が映るはずの画面に、陰惨な映像が流れ出す。

『第100位。大手製造メーカーA社、代表取締役、〇〇。品質データ改ざんによる不正利益、累計二千億円。および、内部告発者への社会的抹殺の指示』

スーツ姿の初老の男の写真と、その罪状がテロップで表示される。次の瞬間、映像は、豪華な社長室で男がヤマトタケルに一刀両断される防犯カメラ映像へと切り替わった。

「ひいっ!」「やめろ、放送を止めろ!」 スタジオは阿鼻叫喚となったが、誰も放送を止めることはできなかった。局のマスター室も、すでに制圧されていたのだ。

『第99位。大手アパレルメーカーB社、専務、△△。海外技能実習生への違法労働強要、および人権蹂躙』

ランキングが進むにつれ、国民が知る大企業の幹部たちが次々と晒され、処刑されていく。 だが、真の恐怖はランキングが上位に入ってからだった。

50位、30位、10位……。 そこに映し出されたのは、これまで一度もメディアに出たことがない、名前すら聞いたことのない人物ばかりだった。 彼らは財界の重鎮を顎で使い、政治家の愛人を斡旋し、暴力団すら手足として使う、この国の真の支配者たち――「フィクサー」だった。

国民は戦慄した。自分たちが知っていた「悪」など氷山の一角に過ぎず、この国が根底から腐敗していた事実を突きつけられたのだ。

1位の男――歴代総理大臣すらひれ伏すという、齢九十を超える日本の黒幕が、自宅の寝室で断罪される映像が流れ終えた時、ランキングは終了した。

この放送の直後から、空港にはプライベートジェットの離陸要請が殺到した。 TOP100には入らなかったものの、脛に傷を持つ権力者たちが、我先にと国外逃亡を図ったのである。日本から、腐敗したエリートたちが一斉に姿を消した夜だった。


数日後。合同国会の記者会見場。 もはや誰もがその存在を畏怖する中、久しぶりにヤマトタケルが公の場に姿を現した。 フラッシュは焚かれない。静寂だけが彼を出迎えた。

ヤマトタケルは、いつものようにマイクを使わず、しかし誰もが聞き取れる声で語り始めた。

「私の日本改革は、これで最低限の段階を終えることができた」

彼は、綺麗になった――物理的にも、倫理的にも――議事堂を見渡した。

「巨悪は去った。これからは、皆の目に留まらぬような小悪を、引き続き退治していくこととなるだろう」

そして、彼はカメラを通して、全ての日本人に最後の言葉を残した。

「日本が再び乱れる時、私は再び現れる。……私が二度と現れぬことを祈るがいい」

そう言い残し、ヤマトタケルは煙のようにその場から消え去った。 それが、彼が公に見せた最後の姿となった。


その後、ヤマトタケルがどうなったのか、誰も知らない。 だが、日本は変わった。

表立ったニュースにはならないが、奇妙な「変死事件」が頻発するようになった。 投資詐欺で老人を騙した男、パワハラで部下を自殺に追い込んだ会社員、弱い者いじめを繰り返した学生。 法では裁ききれない、しかし一般的な倫理観から大きく外れた行為を行った者たちが、ある日突然、鋭利な刃物で両断された姿で発見されるのだ。

そこに、ヤマトタケルの姿はない。声明文もない。 ただ、「禊(みそぎ)」の事実だけが残される。

人々は理解した。 あの荒ぶる神は、今も日本のどこかで、我々を見ているのだと。

恐怖による規律と、強制されたモラル。 世界で最も安全で、最も清廉で、そして最も静謐な国となった日本。 この国がこれからどこへ向かうのか、それは神のみぞ知る――いや、神ですら知らぬことなのかもしれない。