手ぶらで始める異世界転生 第12話  

「さあ、買い物の時間よ!」 ミライはそう言うと、嬉しそうに部屋の外へ飛び出した。 私も慌てて後を追う。廊下に出た瞬間、彼女を庇うように、フルプレートの甲冑に身を包んだ男女の騎士が立ちはだかった。 「止まれ! 何者だ!」 威圧的な声に私がたじろぐと、ミライが冷静に言った。 「彼は私が話していた従者よ。気にしないで」 「はっ! 失礼いたしました!」 二人は即座に敬礼し、道を開けた。 彼らはこの街の騎士団の団長と副長らしい。副長が女性であることに少し驚いたが、団長の副長に対するぞんざいな態度を見るに、やはりこの世界の根底にある男尊女卑の構造は変わらないようだ。

「気にしないように。早く行きましょう」 ミライは私の腕を引き、街の奥地へと誘った。 連れて行かれた先は、古びた石造りの建物。「魔法屋」という看板が掲げられている。 この世界では、契約さえ成功すれば誰でも魔法を使うことができる。しかし、契約は貴族御用達の賢者か、こうした街の魔法屋でしか行えない。 魔法屋は一つの街に一軒程度しかなく、完全な独占市場だ。しかも、一つの魔法を覚えるのに金貨1枚(銀貨100枚相当)以上が相場。失敗しても返金はなし。 さらに、覚えられるかどうかは才能次第で、ステータスの数値は関係ない。運否天賦に大金を賭けられるのは金持ちのみ。その結果、魔法を使える人間は極めて少ないのが現状だ。

私はおずおずと言った。 「ここに連れてこられても、私にできることは……。金貨なんて持ってませんよ」 ミライは呆れ顔で言った。 「馬鹿ね。私には『ブラックカード』があるのよ」 そう言って、彼女は一枚の羊皮紙を私に見せた。 それは司祭から授かった証明書で、「この世界の全ての者は、無条件で救世主に協力せよ」という旨が記されているという。 つまり、これを見せれば、タダで何でも手に入る魔法の紙ということだ。 魔法の紙を使って魔法を覚えるとは皮肉な話だが、断る理由はない。私は彼女の厚意に甘え、全ての魔法の契約に挑戦することにした。

「私もこの店の魔法を全て契約させてもらったけど、あなたはいくつ契約できるのかしら?」 ミライがいつもの高飛車な態度で挑発してくる。 ぐぬぬ、と言い返したいところだが、ぐっと堪える。私も異世界人だ。金がなくてチャンスがなかっただけで、才能が眠っている可能性はある。今度こそ汚名返上だ。私は意気揚々と魔法屋の扉を開けた。

結果は、惨敗だった。 この魔法屋で契約できる魔法は全部で16種類あったが、私が契約できたのは「灯火(ライト)」と「着火(イグニス)」の2種類のみ。どちらも生活魔法レベルの初歩的なものだ。 全部ダメなら「才能がなかった」で済むが、中途半端にできてしまったせいで、言い訳すらできない。

「まあ、予想通りね」 店を出ると、ミライは涼しい顔で言った。 「せめて武器でも豪華にしましょうか? その棍棒、ちょっと貧相だし」 彼女は私の「トゲ付き」を指差した。 しかし、私は首を横に振った。 「いえ、結構です。この装備には思い入れがありますし、使い慣れない武器で痛い目にあった記憶もあるので。今の私には、これがベストです」 リズが作ってくれた防具と、ボルドが勧めてくれた棍棒。これらは私の冒険の証だ。 反論されるかと覚悟したが、ミライは意外にもあっさりと頷いた。 「そう。あなたがそう思うのなら、そうなんでしょうね。じゃあ、買い物の続きを楽しむわよ」

私たちは市場へ向かった。 ミライは珍しい果物や串焼きを見つけては、「これ何かしら?」「美味しそう!」とはしゃぎ、私にも勧めてくる。 まるでデートのようだ。私は少し気恥ずかしさを感じながらも、彼女との時間を楽しんだ。

ひとしきり市場を散策した後、私たちは少し高級なレストランに入り、落ち着いて食事を楽しんだ。 一息ついたところで、ミライが言った。 「明日は魔物の本拠地に行くから、今日は早めに解散しましょう。といっても、あなたが寝ていた宿屋に戻って寝るだけだけど」 「魔物の本拠地? それは一体どこに……」 私が説明を求めると、ミライは冷静に払いのけた。 「説明してもあなたがやることは変わらないから。明日、道中で説明するわ」 彼女の言葉には、有無を言わせない響きがあった。先ほど私の武器へのこだわりを受け入れてくれたこともあり、私は素直に従うことにした。

久しぶりの休息。 私は、最初に泊まった時とは違う、清潔でふかふかのベッドに横たわった。 「灯火」と「着火」。わずかだが、魔法も使えるようになった。装備も万全だ。 明日こそは、彼女の力になれるだろうか。 私は意気揚々と、久しぶりの豪華な部屋で眠りについた。

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