神鳴くんはクールを装う 7話

夏が過ぎ、秋が来た。修学旅行のシーズンだ。

俺たちの学校の今年の行き先は、北陸の古都、石川県・金沢だった。

「響~! 新幹線の中でトランプやろうよ! ねぇねぇ!」

「うるせぇ。寝る」

俺はいつものように、隣で騒ぐ葵を突き放し、窓の外の景色を眺めた。もちろん、内心は修学旅行に浮かれている。京都や奈良ではなく、金沢という渋いチョイスも、クールな俺には似合っている。

茜は、別の車両のクラスだが、連絡を取り合い、「金沢で合流しましょうね!」と意気込んでいた。

金沢に到着し、兼六園や近江町市場といった名所を巡る中、俺たちは前田藩の墓地へと立ち寄った。鬱蒼とした杉林の中に、苔むした古い墓石が並ぶ、静かで厳粛な場所だ。

金沢の歴史を感じる場所で、周囲には修学旅行の生徒はほとんどいない。不穏な空気が漂い始めたのは、その時だった。

「…ここか」

俺は、ピカリスの震えを感じ、すぐに警戒態勢に入った。墓地の影から、全身を黒いローブで覆い隠した、痩せ型の男が現れた。

男は、俺と目が合うと、静かに片手を差し出してきた。

「レッツダンス」

俺は、一瞬の戸惑いもなく、その手に応じた。

「上等だ」

周囲の景色が、一瞬でバトル・フィールドへと転換される。

「俺の能力は、死を操る『デスサイズ』だ。この墓地がお前の墓場となる」

ローブの男は、低い声で名乗りを上げた。

俺が名乗りを上げる間もなく、男は両手を広げた。その瞬間、周囲の古い墓石の下から、土を掻き分け、ぼろぼろの死体が這い上がってきた。数十体のゾンビが、俺たちを取り囲む。

(くそっ、墓場の死体を操る能力か…! 相性最悪だ!)

ゾンビたちは、見た目こそ腐敗しているが、その動きは鈍くない。むしろ、死体とは思えないほどの力強い攻撃を仕掛けてきた。

俺は、ゾンビの大群から逃げ回りながら、ローブの男との距離を取ろうとする。

「効かないぞ、デスサイズ! お前の雷では、動かない肉体は止められない!」

デスサイズは、静かに俺を嘲笑する。確かに、心臓も神経もない死体相手に、雷撃は有効打にならない。

(どうする…魔雷光は効かない。魔眼で幻覚を見せても、こいつらは視覚に頼って動いてねぇ…)

その時、俺の頭にひらめきが走った。それは、魔神雷(マシンライ)の、新たな可能性だ。

(そうだ…! 人の神経は、微弱な電気信号で動いている。なら、死体が動いているのも、デスサイズの能力による電気信号か、それに近い信号で動いているはずだ!)

俺は、一瞬逃げ惑うのをやめ、立ち止まった。

「魔神雷(マシンライ)!」

俺は、全身の電力を、周囲のゾンビたちへと放出した。俺の電力は、デスサイズの支配を無視し、その制御信号を上書きするように、ゾンビの運動神経を支配した。

ゾンビたちは、一斉に動きを止め、その次の瞬間、俺の意のままに動き出した。

「なっ…!? 馬鹿な! 支配を上書きしただと!?」

デスサイズは、初めて動揺の色を見せた。数十体のゾンビが、今度はデスサイズ自身を囲み、攻撃態勢に入る。

「悪く思うなよ、デスサイズ。お前の敗因は、俺の能力を知らなかったことだ」

俺は、自分の支配下に入ったゾンビたちに、一斉にデスサイズを攻撃させた。肉塊の壁に押しつぶされ、デスサイズはあっけなく戦闘不能となる。

「ふん。相性の問題とはいえ、雑魚が」

俺は、ローブの男が倒れるのを見て、いつものクールな装いで吐き捨てた。

しかし、俺の内心は、とてつもない慢心に包まれていた。

(海を支配するネプチューンも、死体を操るデスサイズも…。能力の相性が、全て俺に味方している! 俺の雷の能力は、物質、エネルギー、そして生命活動の全てを支配できる…。これは、王者の能力なんじゃないか?)

俺は、自分の能力の無限の可能性を感じ、冷酷なまでに自信に満ち溢れていた。この調子なら、妖精の王様になるのも夢ではない。

俺は、墓地で倒れているデスサイズに目もくれず、バトル・フィールドの解除を待った。

神鳴くんはクールを装う 4話

放課後、俺の部屋。

昨日、フォークダンスのバトルで俺に敗北した、炎の能力者『スカーレットデザイア』こと、赤羽(あかばね) 茜(あかね)が、俺の部屋にいる。お互いの素性を知った俺たちは、この戦いを生き抜くために情報交換をすることにした。

「へぇ、先輩は雷の磁力で鉄を操れるんですね。すごい!」

「お前こそ、炎の幻覚で陽動かけるとか、厄介なこと考えるな」

俺はベッドに腰掛け、茜は床に座って話している。ピカリスと、茜の妖精『スカーレット』も、お互い牽制し合うように、俺たちの肩の上で静かに様子を窺っていた。

しかし、俺の頭の中は、戦いの情報どころではなかった。

(くっ…女の子が、俺の部屋にいる…!)

クールな俺を演じるため、腕を組み、真面目な表情を貼り付けているが、心臓はドラムロールのように鳴り響いている。茜の私服姿、部屋に漂う甘い匂い…。茜の言葉はほとんど頭に入ってこない。

「だから、先輩。今は個別で動くよりも、お互いの弱点を補えるチームを組んだ方が合理的だと思いませんか?」

「…チ、チームか。まあ、理に適ってるな」

俺は、ろくに話も聞かずに、その提案に乗った。とにかく、茜が俺の部屋にいる状況を早く終わらせなければ、俺のクールな装いが崩壊しかねなかったからだ。

茜を近くの大通りまで送り届け、家に帰ると、家の前で幼馴染の星宮 葵が待っていた。

「あ、響! 遅いよ! ていうか、さっきの女の子、誰? 一年生でしょ? やっと彼女ができたの? 熱いね~!」

葵は、ニヤニヤと笑いながら俺を冷やかしてきた。俺は、茜が昨日まで命を懸けて戦った能力者であることなど、もちろん話せない。

(なんだよ、その反応…)

俺は、内心ガッカリした。少しでも葵にジェラシーを見せてほしかったのだ。昨日まであれだけベタベタしてきて、「響は私がいないとダメなんだから!」と言っていたくせに、俺に彼女ができそうな状況を前にしても、全く嫉妬のそぶりがない。

「お前には関係ないだろ」

俺は、強がりを言うことしかできなかった。

それから数日後。茜と会うことが、すっかり俺たちの放課後の日常になっていた。

俺たちは、いつものように近所の公園で、能力の連携について話し合っていた。

すると、俺たちの近くに、見た目がまったく同じ、双子の男子生徒が立っているのに気が付いた。双子だろうか、二人はピッタリと並び、俺たちを見ている。

双子は、同時に口を開いた。

「…レッツダンス ダブル」

ピカリスが「響、待って!」と慌てて制止に入ろうとしたが、俺の体はすでに反射で動いていた。

パシッ!

俺は、目の前の双子のどちらか片方の手を、反射的に叩き落としてしまった。

周囲の騒音が消え、静寂が包み込む。異世界バトル・フィールドへと転送された証拠だ。隣には、恋人つなぎで手を握ってきた茜がいる。そして、向かいには、やはり二人とも立っている双子の姿があった。

「コンビバトルを受けていただいて、ありがとうございます! 我々は光を操る『ラーの目(ラーズ・アイ)』! いざ尋常に!」

双子は、一人が力強く名乗りを上げた。

(2対2のコンビバトル…! ダブルってそういう意味か…!)

俺は、即座に空気を読んで、自分の名乗りを叫ぶ。

「神鳴 響! ライトニングボルケーノが相手になる!」

すると、俺に被せるように、茜が前に出た。

「そして、私はスカーレットデザイア! 雷と炎、愛の力で絡み合う、『ラブデザイア』! 受けて立つ!」

(ラブデザイアだと!? 勝手に、俺とのコンビ名を決めやがって…! でも、かっこいい…!)

俺の内心の動揺も知らず、口上を言い終わるのを待っていたかのように、双子から攻撃が飛んできた。

閃光と共に、一本の光線が放たれる。俺たちはそれをギリギリで避けた。光線が直撃した公園の滑り台が、一瞬で溶けてしまう。

「ひっ…!」

「大丈夫か、茜!」

一瞬でどうこうなる威力ではないが、数秒照射されれば致命傷になる。

「大丈夫です! でも、長時間はマズいですよ!」

俺たちは高を括っていたが、その直後、俺の背中に強い違和感が走った。違和感に気づき、慌てて飛びのく。俺がいた場所には、別の角度から光線が照射されていた。

「チッ、イリュージョンと同じ仕組みか!?」

俺は疑うが、正面から放った魔雷光は、双子の体には素直に通じた。しかし、双子は攻撃を避けるのが上手い。そして、なにより死角から攻撃が飛んでくるため、攻撃に集中できない。

俺たちは、とにかく逃げ回り、遊具や木々の影に隠れた。

逃げ回るうちに、俺は偶然、敵の手の内を理解した。

(攻撃の光は、一人の双子から放たれている…! もう一人は、その光を反射させたり、レンズを作ったりして、攻撃の角度を自在に変えている!)

双子は、一人が攻撃役、もう一人が補助役という、鉄壁のコンビネーションを使っているのだ。

「響先輩、種は分かりましたか!?」

「ああ! 光を操る奴が厄介だ! だが、どうする…このままじゃ、こっちの手数が足りねぇ!」

俺が焦り始めた時、茜が力強く言った。

「私に考えがあります! 私の新しい必殺技、まだ名前を決めてなかったんですが、今使います! 先輩、私の合図で、レンズや鏡になってる場所を狙ってください!」

茜は、呼吸を整え、両手を前に突き出した。

「燃えろ、アーク!」

茜の掌から放たれた炎は、これまでの炎とは違い、細く、青白い光を帯びていた。それは、周囲の遊具などに反射している光線のレンズ役となっているであろう、空気中の目に見えない一点へと、ピンポイントで到達した。

ジュッ!

茜の技『アーク』は、短時間で超高温を出す技だった。これで、双子が作り出した空気中のレンズや鏡が一瞬で熱により溶け、光線のコンビネーションが崩れた。

「しまった!」

双子が動揺し、攻撃の手が止まった、たった一瞬の隙。

俺は、迷わず叫んだ。

「魔雷光(まらいこう)!」

閃光と共に、強力な雷撃が双子を襲い、二人は意識を失って倒れた。

勝利の歓喜に包まれ、俺が安堵の息をついた瞬間、茜が駆け寄ってきて、強く抱きついてきた。

「やったー! 響先輩! ラブデザイア大成功です!」

「お、おい…離せよ、鬱陶しい」

俺はいつものようにクールに振る舞うが、心臓はバクバクだ。能力バトルに勝利した高揚感と、茜に抱きしめられているドキドキ感が混ざり合い、頭が真っ白になる。

そして、バトル・フィールドが解除された。

茜はまだ俺を抱きしめたままだった。ふと、俺の視界の端に、誰かが映った。

星宮 葵だ。

葵は、公園の入り口に立っており、俺と茜の抱擁シーンを目撃していた。

俺は、顔が火を噴きそうなほど恥ずかしくなり、身動きが取れない。葵は、怒るそぶりも、嫉妬するそぶりも見せていない。それどころか、穏やかな笑顔で、こちらに向かって小さく手を振ったのだ。

(敵の技はわかっても、女心はまったくわからない…)

俺は、葵の微笑みの真意も、茜の愛の力という名の勝利の抱擁も、どちらも理解できず、ただただ、クールな仮面を強く貼り付けることしかできなかった。

365

聴:嘆きの振動

私は天使。人間たちが呼ぶところの、世界を調整し、魂の均衡を司る存在だ。

私の役目は、地上の**「嘆き」**を聞き届けること。長らく、私は特定の個人的な祈りには干渉してこなかった。だが、佐伯和人という一人の男から発せられた嘆きの振動は、他のそれとは異なっていた。

それは、自己犠牲的な献身と、限界を超えた疲弊、そして罪悪感を伴う解放への願望が複雑に絡み合った、極めて純粋なエネルギーだった。

彼、和人は、要介護の母を献身的に支え続けた。彼の心の底には、母の死を願う**「闇」があったが、それを即座に打ち消す「光」――「自分だけでなく、同じ問題を抱える全ての人を救いたい」**という、普遍的な愛の希求があった。

私は、彼の前に姿を現した。光を纏う必要はなかったが、人間は視覚的な刺激でしか真実を理解できない。

「佐伯和人。あなたの心から発せられた深い嘆きと、自己犠牲的な献身の念を聞き届けました。私はあなたの願いを、一つだけ叶えましょう」

彼は熟考した。その過程が重要だった。彼は個人的な金銭や、母の延命、あるいは即死といった単純な選択肢を退けた。

そして、彼が口にした願い。それは、私の記録の中でも、最も冷徹な合理性深い優しさが融合したものだった。

「この世にいる、食事、排泄を一人でできない人を、全て本人が思う『最盛期』の姿に変えさせてくれ。代わりに、その対象者の寿命を**三十六十五分の一(約一日)**にしてほしい」

「また、この対象になった者が、第三者に殺意を向けた場合、即座にその寿命を終わらせてほしい」

執:契約の履行

私は即座にその願いを**「普遍の契約」**として受理した。

介護問題。それは、人間の文明が高度に発展した末に生まれた、最も苦しく、解決が難しい、魂の停滞を招く病巣だった。介護する側は「義務」に縛られ、される側は「屈辱」と「無力」に苦しむ。誰も幸せになれない、閉じた円環だ。

和人の願いは、その円環を**「一瞬の歓喜」**という形で断ち切るものだった。

私は、世界中の対象者――食事と排泄に介助を要する魂たち――に向けて、時間と肉体の流動性に関する干渉を実行した。

実行直後、世界中から発せられたのは、純粋な驚きと、歓喜の波動だった。ベッドに縛られていた魂たちが、突如として最も輝いていた頃の肉体を取り戻した。彼らは、与えられたわずかな命の時間を、解放された欲望失われた青春を謳歌するために使った。

佐伯綾子もまた、そうだった。彼女の魂は、息子への支配と、老いへの屈辱から解放された喜びで満ち溢れていた。その十日間、彼女は**「女性」**として、全てを取り戻そうと奔走した。

一方、和人。彼は、その綾子に罪深い恋慕の情を抱いた。彼が真面目に抑えつけてきた**「現を抜かす」という本能が、最も身近で、最も手の届かない女性に向けられたのだ。彼の苦悩は深かったが、それは彼が「一人の男」**として、抑圧から解放された証でもあった。

観:セーフティと結末

私は、和人が設けたセーフティロックの作動も監視していた。

あの川西義雄という男。彼は若返りの力を、長年の憎悪を晴らすために使おうとした。彼が綾子にナイフを振りかざし、心に**明確な「殺意」**が灯った瞬間、私は迷いなく、彼の寿命の制御を停止させた。

義雄の魂は、憎悪という名の業火に焼かれ、本来の肉体の姿に戻って滅した。彼の願いは「復讐」だったが、契約の範囲は「介護問題の解決」であり、その目的を脅かす「殺意」は容赦なく排除された。

彼の死を目撃した綾子の魂は、欲望の絶頂から一転して恐怖に陥った。それは、彼女の十日間の自由の幕引きとしては、ある種の**「代償」**を払わせるものだった。

そして、期限が来た魂たちは、静かに肉体を元の状態に戻し、安らかな死を迎えていった。綾子の魂もまた、**「満足」**を湛えて、肉体から離脱した。

理:残された世界

半年後、地上には静寂が訪れた。

介護問題は劇的に解決し、和人のように長年苦しんできた人々は解放された。彼の顔から、あの鉛のような疲労の色は消え、解放感と、新しい人生への戸惑いが混じった表情が見て取れる。彼は、わずかな恋の傷跡を抱きながらも、前に進もうとしている。

しかし、同時に、人口の半減という新たな問題が生じた。労働力の激減、経済構造の崩壊。人間たちは、再び**「生き方」**そのものを問い直すことを強いられている。

佐伯和人の願いは、介護問題を解決したが、**「普遍の安寧」までは約束しなかった。私たちが介入できるのは、あくまで「魂の停滞の解消」まで。その後の、「生きる」**という創造的な行為は、人間自身に委ねられている。

私は今、静かに地上を見下ろしている。

和人の願いは、この世界を救済したのか、それとも新たな試練を与えたのか。

いずれにせよ、私の役目は終わった。私は、再び、新たな**「嘆きの振動」**が世界から発せられるのを、ただ静かに待つのみだ。

365 一瞬は永遠

壱:奇跡と嘲笑
私は花子、八十五歳。あの地獄のような日々を、八年近くも介護施設で過ごしてきた。自分の体じゃないみたいに重くて、臭くて、いつも誰かの世話になっている。人生の最後の舞台が、この白い天井と消毒液の匂いなんて、冗談にもならないと思っていたよ。

目が覚めたあの日。私は、自分の体が軽すぎて、まるで宙に浮いているみたいだと感じた。手を握ると、力強い感覚が戻ってくる。鏡を見た。そこにいたのは、二十歳の、少し気が強くて、男を追いかけ回していた頃の私だった。

「ひゃは! やったよ、神様!」

喜びの涙なんて流さない。流したのは、これまでの屈辱の汗だ。

すぐに施設長たちが駆け込んできて、大騒ぎになった。そして、政府からのあの緊急放送だ。

「混乱しないでください。原因究明と状況の整理がつくまで、若返った方々は、現在の場所での待機と安静をお願いします。」

私はそれを聞いて、腹を抱えて笑った。

「ふん! 棺桶に片足突っ込んでたんだ。これ以上失うものがあるかい!」

隣のベッドにいた澄江さんが、青い顔で私を見た。「花子さん、政府が言ってるのよ…」

「澄江さん、あんたも相変わらずねぇ!」私はベッドから勢いよく飛び降りた。若返った足の裏が、冷たい床をしっかりと捉える。この感覚よ!

「聞いてごらんよ、澄江さん。私たちが生きられるのは、長くてもあと数週間か、もしかしたら数日らしいよ。こんなところで『待機』して、天井の染みでも数えて死ねってかい?冗談じゃない。私は最高のエンディングを迎えるんだ!」

私はすぐに荷物をまとめた。着古した寝間着なんて脱ぎ捨てて、備品室からテキトーなタオルをローブみたいに羽織った。

施設のドアの前で職員が泣きながら止める。「花子さん! 危ないです!」

私はニヤリと笑った。「ごめんね、坊や。私の人生は、もう誰にも止められないのさ!」

弐:十日間の疾走と絶景
外に出た街の空気は、最高に甘かった。私はスマホを手に取り、タクシーを呼んだ。行先は、一番豪華なホテル。

初日、私は最高の服を買い漁った。赤、真紅、深いボルドー。老いてから似合わなくなった色が、二十歳の肌には映える。そして、高価なシャンパンを浴びるように飲んだ。

SNSで同じ境遇の仲間を募ると、すぐに集まった。皆、私と同じで、「待機」を選ばなかった、最高のバカたちだ。

三日目、私たちは高級レンタカーに乗り込み、海へ向かった。私は水着姿で波打ち際を走り回った。砂浜を走るなんて、何十年ぶりだろう。体が求めるままに動き、笑い、叫んだ。夕陽を見ながら、若い男とキスをした。人生最後のキスが、まさかこんなに熱いなんてね!

五日目、私たちは大都会のど真ん中、一番派手なクラブを借り切った。若返った私たちの金はすぐに尽きる。でも、構わない。私たちは「命」を燃やしているんだ。私はDJブースに上がり、マイクを奪って叫んだ。

「あんたたち! 羨ましいかい? 私たちは、地獄を見て、天国にいるのさ! 最高の命の使い道ってやつを、見せてやるよ!」

八日目、体に少しだけ重さを感じ始めた。私たちは、皆で自分の「終活」をすることにした。遺言状なんて書かない。ただ、一番お気に入りのアクセサリーを、一番愛した場所に埋めた。そして、残った金をすべて使い果たした。

私は、和人さんの家で静かに待っているという佐伯綾子の噂を聞いた。あの高慢な女も、私と同じように若返ったはずだ。でも、彼女は家で「待機」しているらしい。

「なんてつまらない人生の幕引きなんだろうね」私は仲間に言った。

私たちが恐れていたのは死じゃない。老いたまま、望みなく死ぬことだったんだ。

参:最高の幕引き
九日目の夜。

私たちは、私がかつて過ごしたあの介護施設の庭に戻ってきた。静かな施設を背景に、最後のパーティーを始めた。

私は真紅のドレスを纏った。そして、窓から私を見ている澄江さんに手を振った。

「澄江さん! あんたも来なさいよ! もう時間がないんだよ!」

彼女は出てこなかった。相変わらず、彼女は檻の中にいる。

私は、彼女に向かって、そして世界に向かって、最高の笑顔で言った。

「いいかい、澄江さん! 人生は、待機するものじゃないんだよ!」

私たちは、夜が明けるまで笑い、歌い、踊った。体は確かに重かったけれど、心はどこまでも軽かった。

十日目の朝。

夜明けの光が、私たちの顔を照らし始めた。私は、仲間の手の温もりを感じながら、静かに目を閉じた。

視界が、まるで古い写真のように色褪せていくのを感じる。体から力が抜けていく。

私の心には、何の悔いもない。最高の十日間だった。私は、最期まで私自身の人生の主役であり続けた。

意識が途切れる寸前、私は心の中で静かに呟いた。

(さあ、老いよ、死よ。いつでも来なさい。私はもう、満たされているよ)

私は、満ち足りた笑顔を浮かべたまま、静かに命を終えた。

幻影少年 万乗大智

簡単に作品を説明すると。
人の心に、入り込める不思議な能力をもったサトワ少年の一話完結型の人情ものの作品だ。

全六巻と現在も現役の万乗先生作品全部から考えれば、特別売れている作品でもない部類にはいるが、私はこの作品を読むごとに毎回涙してしまう。

話はどちらかといえばありきたりな人情ものだが万乗先生独特のせりふ回しや、勢いによってどうしても涙なくして読むことが難しい。もし今連載しているアグレッサーの検索からたまたまこのブログにたどり着いた方がいるのであれば、一度この作品を試してみてほしい。
おそらくDANDOを超える名作として読むにあたいするだろう。

ジャンプ+隠れた名作

ジャンププラスは、集英社で運営している基本無料の漫画掲載ウェブサイトもしくは、ウェブアプリのことで、集英社が運営者しているだけあって、非常に質の高い作品の並ぶウェブ漫画です。人気が高くアニメ化されている作品も多く「スパイファミリー」「怪獣8号」「推しの子」「チェンソーマン」「ダンダダン」「姫様拷問の時間です」などが現在も掲載されています。

そんな中埋もれてしまっているが、様々な名作が隠れていて、その一作以降に同じ作者も次作には結びついていな人も多いので、是非そういった作品を皆さんに知っていただきたく記事を上げさせていただきました。全て完結済みなので、是非この機会に読んでみてください。
ちなみに順番は適当です。

ハンサムマストダイ アストラ芦魔

男性アイドルの追っかけをしていた少女がある日、アイドル事務所の事件にまきこまれ事件の真相に迫っていくギャグマンガです。現在崩壊したジャニーズ事務所を連想させる作品です。主人公のかわいさもありますが、かなり切れのいい笑いが読めます。
https://shonenjumpplus.com/episode/4856001361184138670

タヌキツネのゴン メガサワラ

化けタヌキと化けキツネの子供、タヌキツネのゴンが妖怪の学校でほのぼの日常をおくる、ほんわか人情(?)」ストーリーです。心暖かくなこと間違いに作品です。
https://shonenjumpplus.com/episode/3270375685412227400

スライムライフ メガサワラ

上記に続き、メガサワラ先生のファンタジー世界の日常、冒険ファンタジーです。タヌキツネのゴンと同じく心暖かくなる名作です。
https://shonenjumpplus.com/episode/13932016480028968571

接客無双 鳩胸つるん

接客をテーマにしたバトルマンガです。何言ってるかわからないと思いますが、そんなギャグマンガです。何言ってるか本当によくわからないです。
https://shonenjumpplus.com/episode/4856001361074185595

限界煩悩活劇オサム ゲタバ子

普通の除霊はできないけど、腐女子の霊は除霊ができるオサムと非実現ギャルのタッグでの除霊逆マンガです。ちょっと部隊がニッチなので、伝わりくいところもありますが。勢いがあり非常に楽しめる作品です。
https://shonenjumpplus.com/episode/316112896806207137

サイハテ四重奏 上月ヲサム

四大天使が現在の日本に堕天し、悪魔に勝つためアイドル活動をおこなっていくギャグマンガです。魅力は、とにかく各天使のキャラクターが強く、温度差でかなり笑わせてもらいました。
https://shonenjumpplus.com/episode/4855956445093072243

タテの国 田中空

謎の国タテの国、その世界をかけめぐる主人公の冒険譚です。絵は下手ですが、とにかく世界観がでかいです。SF好きの人にお勧めです。こちらはコミックが出てないので、サイトでしか見ることができないです。
https://shonenjumpplus.com/episode/10834108156642491399

サラダ・ヴァイキング ソウイチロウ

地球侵略におりたった完全肉食の宇宙人が、地球人の農家と出会い、心を通わしていくグルメマンガとなります。登場人物かく魅力的なので、非常に読みやすい漫画です。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496629947107

ハイパーインフレーション 住吉九

奴隷解放を目指して、勇者が立ち上がる、基本武力ではなく知力で戦っていくのですが、頭の悪い頭脳バトルといえばいいのでしょうか?なんとも説明できない謎の勢いで話しが進んでいきます。低知能頭脳バトルという新たなジャンルといってもいいかもしれません。
https://shonenjumpplus.com/episode/13933686331749163174

ベイビーブルーパー はるにわかえる

映画研究会で映画作成をしていくギャグマンガです。勢いだけが多いのですがバカギャグとしてかなり笑うことができます。
https://shonenjumpplus.com/episode/3270375685372374558

アンテン様の腹の中 夜諏河樹

貢物を代償に願いをかなえてくれる、アンテン様をめぐるオムニバスストーリー、世にも奇妙な物語系が好きな方は非常にはまれる作品となっています。各話も非常にできがいいです。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496723483979

歯医者さん、あタってます! 山崎将

地元ヤクザの跡取り息子が歯医者でであい、町中の人々を巻き込んで進むラブコメディ。ちなみに主人公の片方はそのままヤクザですが、もう片方は女装して歯医者をやっています。シュチュエーションを聞いて意味が分からないと思いますが。読み進めていくと、設定がこんがらがっていてって、どう解決していくのだろうわからなくなっていくと思います。ラブとかきましたが、ラブは少なくコメディが多いです。きれいに完結しますので、安心して読めます。
https://shonenjumpplus.com/episode/13933686331646901547

全部ぶっ壊す へじていと/山岸菜

現代日本に、転生した魔王と勇者のコメディ漫画です。これだけかくと、なろう系を連想されるかもしれませんが、オーソドックスな学園ギャグマンガです。演出方法がマンガチックで、非常に楽しみやすい一作です。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496629947146

キネマキア オオヒラ航多

映画をテーマにした、スタンドバトル系のバトルマンガです。各スタンドが映画をモチーフにしており、映画のもとネタを想像するのも楽しめます。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496363847056

その淑女は偶像となる 松本陽介

アイドルを目指す少女たちの熱血アイドルストーリーです。マンガとしては打ち切りで中途半端なところで終わりますが、勢いがあってスポーツもの系に通じるものがあります。
https://shonenjumpplus.com/episode/13933686331775866261

本気出せばお前殺せる 屋根裏シスコ

一見おしとやかな女性に見える主人公、しかし中身は筋トレが趣味のムキムキパワフルな女性の内情を描いたギャグマンガです。本当にすぐ終わってしまいましたが、終わるには惜しかったギャグマンガです。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496350477156

悪魔のメムメムちゃん 四谷啓太郎

ポンコツサキュバスのメムメムちゃんの巻き起こす。性癖爆発ギャグマンガです。下ネタメインにはなりますが、一応ジャンプの範囲ですので、エロは期待しないでほしいですが、ギャグに関しては期待してOKの漫画です。もうすこし世間的に盛り上がってもよかったのではと思える出来です。10巻以上もでたのに、その後次の作品が出ていないので、作者はどうされたのかと、非常にもったいないです。
https://shonenjumpplus.com/episode/10833497643049550195

とけだせ!みぞれちゃん 足袋はなお

田舎町で雪女があちこち暴れる、日常系妖怪ギャグマンガです。絵柄が若干独特ですが、好きな人は好きになる、名作ほのぼの系ギャグです。
https://shonenjumpplus.com/episode/10834108156636582133

作者の皆さま、次回作期待しておりますので、是非よろしくお願いします。

放課後ひみつクラブ 4 福島鉄平 

この世の不思議を探し求める、謎の美少女と突っ込みの少年の不思議ギャグマンガの第四巻です。

この巻は水着回あり、謎規模のインフレまみれの爆笑満天の珠玉の一巻です。

今まで、魔法少年、侍うさぎなどで、様々な世界観を見せてきた福島先生ですが、全作品の中でぶっちぎり面白いです。この作風は福島先生オリジナルの作風でオンリーワンの独特の空気があります。おそらくこの作品が福島先生の最高傑作になるでしょう。

Lv1魔王とワンルーム勇者 1 toufu 

べたなファンタジー世界で、一度魔王を倒した勇者に、よみがえった魔王が再度勇者に挑むも、時がたちすぎて勇者が衰え切ってしまった世界の勇者と魔王の恋の物語。

ざっとストーリー書きましたが読んでない人には意味不明なストーリーかと思います、ジャンル的にはラブコメでエロ有のさっと読める面白い作品ですが、この10巻に関しては、バトル多めで、作者の画力が微妙で、その粗さが目立つ一巻となります。

極端な話この一巻だけ読んだら次の巻を読もうとは思わない品質の作品ですが、それまでの巻は非常に面白い作品です、この巻から読み始めるのだけは止めましょう。

生徒会にも穴はある!1 むちまろ

タイトルから想像ができる通り、高校の生徒会を舞台にしたエロコメですです。基本的には四コマとなります。

はっきりいってエロ売りだけでギャグはいまいちで、4コマなのにセリフ数が多く読みにくく非常にお勧めできない作品です。同じ作者の「世が夜なら!」のほうがお勧めです。

#真相をお話しします 3 結城真一郎  もりとおる 

オムニバスミステリー作品最終巻、今回は、書下ろし一編をのぞくと、YOUTUBERについての話「拡散希望」の一編のみとなります。

本作品は非常に優秀なミステリのため話の内容について記載なしで感想を書かせていただきます。

全編通してですが、トリックは秀逸なのですが、人物面に異常者が多く児湯間が難しく、本当にトリックを楽しむだけの作品となります。

今回の話で考えさせられたのは、YOUTUBEで不幸な身元を売りにしている人たちは、不幸自慢をしたいのか、不幸な身の上を切り売りしてでも、生きていくために稼がなければいけないのか、なんでもいいから自己顕示欲を満たしたいのか、彼らの気持ちは何を考えているのかを改めて考えさせられました。

未来人サイジョー  いましろ たかし

50前後の漫画家のおっさんが2020年から1970年にタイムスリップして生き残るタイムスリップものの作品です。

おそらく作者の実体験をもとに描かれたようなリアルな情景のため、非常に世界観に引き込まれます。ストーリーも人の人情がかなりリアルに描かれているため、わかりやすく、予想外ながらも、予想通りの展開となっています。非常に素晴らしい作品ではありますが、絵がかなりいまいちで、ビジュアル上主要キャラクターにイケメン、美人がほとんど出てこないため、ヒットにはつながらないような作品でした。

作中でも、人気の伸び悩みの理由に絵柄の受けが悪いという話が出ていますが、それは作者自身のヒットに結びつかない自己反省としてうけとめました、この作品もラスト打ち切りになってしまっていますが、絵が世間受けする画風だったら、おそらくこの作品ももっと長く連載が続きもしかしたら、大ヒット作となったかもしれません「カイジ」や「ドラゴン桜」のような画力がなくてもヒットする作品もありますが、この作品は残念ながら結びつくことがありませんでしたが、おそらくいましろ先生の代表作品としての一本になるかと思います。

江戸前の旬 67 さとう 輝 九十九 森 

超長期連載寿司人情マンガの67巻です。

この漫画はキャラクターが実際の時と並行して成長していくので、それがリアルで非常に面白いです。この巻では娘の緑が大分大きくなって、しゃべる言葉多くなっていき、かつ、旬の子供時代とリンクさせるような行動をとり、感動を呼びます。
話やネタはワンパターンなのですが、各キャラクターが徐々に成長していくところが読む人の心をくすぐります。

エスパー魔美 6 藤子・F・不二雄

ドラえもんで有名な藤子先生代表作のひとつ、超能力美少女を描いた1話完結型の少し不思議な話です。主人公の魔美の可愛さもさることながら、1話1話が起承転結がはっきりしており、非常にわかりやすい話です。ただ子供向けの作品のため、そこまで重みのある話は少ないです。

そんな中で、この巻で一番気になった話は、「ここほれフヤンフヤン」不動産会社に騙されて欠陥住宅をつかまされるが、その土地に財宝が発掘され何とか解決という話だ。
別の記事で書いたが私も家を買う時に悪徳不動産屋に騙されかなり手痛い目にあった、この漫画である通り、向こうが悪かったとしても簡単に解決できるものではない、こういった話は30年前からあるにもかかわらず、消費者を保護される仕組みはいまだに進化していない・・・・、前の巻の捨て犬問題は改善傾向にあるのに、不動産問題は解決傾向に動いていない、犬の命より、人の家の方がおろそかにされているのはなんとも悲しい話だ。

ゴリせん~パニックもので真っ先に死ぬタイプの体育教師~ 酒井大輔

タイトルの通り、よくマンガや映画などで、一番最初に殺される体育教師が実は最強だったらというギャグマンガです。1,2巻ぐらいで早々にネタ切れになるかと思いきや、7巻も続き、非常に楽しめた作品となります。

タイトルの通り、パニック物の設定から、バトルもの、ホラーもの、心霊もの、さらには恋愛ものとお約束の展開を最強の体育教師が夢想していくのは、爽快でした。
2,3話目以降は、すべて落ちが読めているにもかかわらず、7巻も続いて入るところが、ゴリせんのキャラの良さを証明しているかと思います。

DYS CASCADE 中川海二

ある日、山中に放置された血を抜かれた、謎の全裸女性の他殺体が発見され、その事件を解決していく、バディサスペンスもの、全6巻でまとまった作品です。この作者の話は最後までねりにねられた作品となっていますので、ストーリーのネタバレがあると楽しめないと思いますので、底につては何も触れないでおきます。

しいていうのであれば、ラストについては、もうちょっと置きどころがあったのでは思いました。ただ、全体としては非常に優秀な作品のため、サスペンス好きの方にはお勧めの一作です。